第十三話『怪盗ノワールと侵入』

「ねぇこれ、どうするの? 怪盗ノワール捕まったって何? 黒m──あの人やっぱりアホなんじゃないの!?」


 ────博物館は閉館していた。臨時休館だ。怪盗ノワールとかいうドアホが予告状を投げた挙げ句あっさり捕まったらしく、現在館内に立ち入ることは出来ないという。


 という訳で三人仲良く門前払いである。人目もあるから黒峰さんの名前をこの場で出すと多分危ないと判断して僕は言い換えた。


 撤退だ撤退。


 とはいえ何をしたらいいかもわからないから、取り敢えず落ち着いて話せる場所までダッシュで移動してるわけです。ええ、マジでどうするべきなの?


「どうするもこうするもあるか!? あの馬鹿本当に馬鹿じゃないか!? に単独で挑むなんて、以前から馬鹿だ馬鹿だと思っていたが底抜けに救い様の無いド馬鹿だったとはな!」


「ちょっと、科学者ちゃん!? 何、黒峰の試練って!!」


「ああそれか? 単純な話だぞ、、それが真っ当な家であると貴様は思うか??」


「思わ「思わないであろう!!? そういう事だ」


 科学者ちゃんに台詞食われた。


「っていうか僕にそう言うことを教えちゃっていいの? ほら、僕無関係だったのに!!」


「何を今更! もう関わらないようにするのは嫌なんだと言ったのは貴様だろう? じゃあ貴様のような優柔不断!! 深入りさせてちっぽけな逃げ道潰してしまった方が潔くなる!! なにより試練参加の頭数だ逃すか!!?」


「あの銃を盗み取り返す、それが黒峰家の一員として認められるための試練なんだって。それ、どう考えてもまともじゃないでしょ? だから私は関わるのは嫌だったの。あと碓井、今逃げたら社会的に殺すから逃げられると思わないでね。貴重な人ばし……仲間なんだから!!」


 そんなことをさせる黒峰家。皐月さんが『関わるな』と言ったのも頷ける。


「そ、そうなんだ……ちょっと待って今人柱って言いませんでした??」


「ともあれあの大馬鹿者は失敗した。黒峰家に居ながら失敗した奴にあの家が何をするかは正直知らんが────」


「────教えてやろうか?」


「「先生!?」」


 突然僕らに並走するように車が止まった。


 顔を出したのは僕のクラスの担任の先生だった。


「この様子だと嫌な予想が当たったらしいな。まあお前ら乗ってけ。な?」


 ◇


「「「…………」」」


 皐月さんと科学者ちゃんは後部座席、僕は助手席に座った。無言。車内は車の駆動音とラジオの騒がしい音楽が響いていた。


「おいおい、警戒するなって…………まあそんなの無理だろうが俺が関係者みたいな伏線はあったろ? なぁ碓氷」


「今日二回目ですよそういうメタ視点ネタ……いやまあ先生怪しいところ幾つか有りましたけど。先月、僕と二人が出会ったのは先生が原因っぽいなとは思ってましたし」


「だろ? なあなあ碓氷、俺、何者だと思う?」


「先生は先生ですよ」


「うっわ、つまらん。やっぱお前相手にしてても何かアレだわ。皐月!」


「え。黒峰家現当主の元カレとかそんなんじゃないの? なんかそういう奴が変な動きしてたって噂聞いてるし」


「ちっがうわー。うわー誰があんなクソアマと付き合いたく思うかよふざけんなあのクソアマ一生許さないリスト堂々のトップ、tierS+じゃボゲェ真面目に愚答です」


「うわあ聞いといてキレるなし……」


「言って良いことと悪いことがある。そうだろ? お前らだって黒峰家の犬とか言われたくはねぇだろ? それと同じで俺は間違っても今生きてる黒峰家の奴らのお仲間だなんて思われたくないわけ。そこんところ分かってくれよ」


 先生が吐き捨てた言葉に皐月さんは少しだけ目付きを鋭くした。……黒峰家の奴ら?


「はぁ、なるほどね。やっぱり死ぬの、藤乃は」


「知ってたろ? 俺なんかよりもずーっと確かな情報をよ」


「そりゃあ、聞かされてるし知ってるしそれが嫌で心の折れた引きこもり演じてたの、知ってんでしょ? その様子じゃあね」


「ああ当然だろ。引きこもりとか言いつつ『ルージュ=フラム=アルセイヌ』って名前でバーチャルライバーになってることもな。登録者十万人おめでとうございます」


「どうもー……? っあああああ!? なんで知って、ねえ碓氷か!! 碓氷あんたまさか先生に言ったぁ!?」


「言ってないよ!? 言うわけないじゃん!! この人皐月さんの生存確認配信でしてたんだって!!」


「おい碓氷俺そんなことお前にひとっことも言ってねぇよなぁ!! お前なんで知っ、ああこら皐月おまえ揺らすな!! あぶねぇからさああ!!!」


 車は法廷速度ギリギリを突っ走っている。安全運転大事。


「……貴様らと一緒だと話が進まんな」


 その間、科学者ちゃんだけはやけにつまらなそうな顔をして窓の外を眺めながら苦笑した。


 ◇


「何か良い案はあるか、はいそこ早かった。碓氷」


「えっ!?いや手を挙げてなかったと思うんですけど」


「細けえ事ぁ良いんだよ!!」


「えっ、えええ……じゃあ、例えば、例えばなんですけど僕が侵入するので、科学者ちゃんは道具を、先生は現場までの足を、皐月さんは声(?)で支援してもらう、というのは……?」


「「「……」」」


「言っといて何ですけど、出来れば他の案がいいなあ。なんて」


「「「はい残念採用です」」」


「はぁ!!?」


 ◇


 ────要するに先生も学生時代に黒峰のとやらと仲が良かったとかで黒峰家がとても嫌いなんだとか。


「(まったくもう、先生が味方だって言うならさっさと言えば良いんですよ)」


『いやもとより関わる気無かったし。だって黒峰家に関わるの怖いもん。ラブコメじゃ無くなっちゃうもんな。だっつーのに碓氷がさっさと改心させてくれりゃあ良かったんだよ、あの子のなーにが不満だったんで?? さっさとくっつけよホント』


「(なんなんですか!? 僕が悪いんですか!? 僕が悪いんですかね!!? いや悪かったですよね……)」


『流石だぞ!! もう非を認められるんだな!! 碓氷!!』


「(なんなんですかこのノリ……? 正直、無駄話する余裕無いですよ今 )」


『いや俺にはあるからなー、余裕。と違ってなー』


「(この無責任教師……!!!)」


『やめてよね、教師に勝てるわけ無いじゃん』


「(うがーっ!!!)」


『……まあ冗談は置いといて。俺としても危ない橋渡ったんだ。大体今の俺はただの先生だし、昔も世間知らずの学生だっただけだぜ? 立場としては碓氷、お前と殆ど変わらねぇ。分かってくれるか?』


「(そりゃあまあ、不法侵入者とはいえまさかされるとか思いませんし。あの人達威嚇射撃とか知ってるんですかね? 危うく死ぬところだったんですけど、流石にこんなことなら単独潜入なんて断ってましたよ。なんですかここ本当に法治国家日本なんですか?)」


『それだけ喋れりゃ十分だな。は事の後三日三晩吐いてたわ』


 俺の時って……。


「────見つけ次第殺せ!!」


「────どこ行きやがった!!」


「────ドタマぶち抜いたる!!」


「(ねぇこれマジでヤクザとかそういうやつじゃないんですか?)」


『かもなー。まあ白光峰グループの首魁の家だから多少の刃傷沙汰は揉み消しちゃうぞ☆って感じだろ。知らんけど』


「(ねぇこれ僕死んだらどうなります?) 」


『黒峰家の試練は、要するに碓氷が今潜入したビルから黒峰藤乃が自力でか他人の力を借りてかはともかく脱出させられればよし。そうだったよな』


『ああ』『そうね』


『正直そもそも打つ手がねぇから。お前死んだらこっちの二人も後を追うことになるだろうなー、俺はしらを切り落とすが』


『あっこの教師一人だけ生き残ろうとしてる!! 良いの!!? あんたの推し配信者が闇に葬られても!!』


『下らん言い争いはよせ。そもそも、誰も死ぬとは決まってない』


「(そうなの!?)」


『処罰対象者とはコンタクトを取ったことがないからな』


 それ死んでるだけでは。


『つーわけだ碓氷。お前の影の薄さだけが頼りだってことで、頼んだぜ?』


「(あの、それならこの格好どうにかならなかったんですか?)」


 ……僕が身に纏っているのは、白いタキシード(目立つ)にマント(動きにくい)、そして口元まで隠すようなのっぺりとした白い仮面(異質)である。


 正直目立ってしょうがない。馬鹿なのか? 隠密する気ある?? 殺す気だろ!!?


 そう思って聞くと、先生はふっ、と笑った。


『大丈夫、安心しろ。だてに俺はお前に目を付けてないわけじゃねぇ。それに『────。そうであろう? であればなぁ、碓氷? やらなきゃだ、そう思うであろう?』


「…………!!」


 科学者ちゃんの言葉で、ハッとし────いやおかしくない?? ラブコメだとなんなの? 見つからないの??


 そんな僕の内心を知らずか、通話の向こう側では。


『あってめっ科学者ちゃん俺の台詞を取りやがって!!』


『貴様まで科学者ちゃん呼びか!!? 早急にその呼び方をやめてくれ!!』


『あーこら二人して……。んじゃ碓氷、そう言うことで。危なくなったり助けがほしかったら言ってねー』


 そんな気楽な声が聞こえた。そっちは車待機で比較的安全だからって!!


「…………無責任な事で」


 この人達は、どうしてそんなに杜撰な作戦で良いと思ってるのかなぁ。僕がそんなに信じられる人間に見えるならそりゃあ信じすぎってものだ。期待しすぎってものだ。


 でも、この先に黒峰さんが居るって事は確かで。


 先に行かないと二度と会えないと言うのであれば。


「僕だってしにたくないし、がんばるしかないかぁ」


 僕は、科学者ちゃん特製のアイテムの数々を手に天井裏に侵入した────。

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