第二話『怪盗ノワールと科学者ちゃん』
────ぼっちとは孤高の生き物である。
例えば宿題忘れたとしよう。リア充どもならまあ間違いなく『○○!! 宿題みーせて!!』などと、なんなら『宿題かーして!!』なんてドクズのような要求をするのだろう。
だがぼっちは違う。彼らは孤高にして潔い生き物である。忘れたときは切腹、他に頼ることなく罰を甘んじて受ける。その高潔さ、列に横入りする奴とかは見習って欲しいまである。
例えば遊びにいくとしよう。リア充ならば『カラオケ行こーぜ』『ラウワンラウワン』などと頭の中身が空っぽな場所にしか行かないだろう。浪費など愚かもののすることである。
だがぼっちは違う。他人に影響されずいついかなる時も遊べる自由さが存在するためお金は必要としない。そう、コストパフォーマンスがものすごく良いのだ!! 常に一人でいるからって別に今時無限に一人遊びできるし、暇潰しに欠くことはないからね!!
一人ならば自室でべらべらとアニメのキャラの真似してても問題ないからね!! 仮面しようがコスプレしようが決め台詞叫ぼうがね!!! 勿論近所迷惑には配慮してますから安心安全!!
故に!! ぼっちとは孤高にして最強の人間なのである!!
僕、
部活は三日でやめたし委員会は無所属、バイトもなにもしてないし、クラスには居場所がないけど、これはぼっち至上主義の僕としては望んだ状況なのですよ。ハハッ、どうして人と群れなければならない?? 群れるのは弱いものがする行動だ。
誰彼構わずに迷惑かけるあんなのとは違うんです。ええ違うんです!!
だから────だから、ほんと、マジで職員室に呼ばれる理由が思い付かないんですけど……。
「…………先生が生徒を呼び出してここまで後悔したのは君が初めてだよ。いやま、拍子抜けってことはいいことかもしれないけど」
「ど、どういうわけですか?」
「いやほら、最近いじめだなんだで教育委員会がうるさいじゃない? 委員会のことはわかんないかも知れないけど。ともかく誰も見向きもしない生徒がいたらそりゃ、何かあると思うじゃない? 思うでしょ思いました首を傾げるところかなそこ!! 先生思いましたなので呼びましたそしたらキラキラした目で『ぼっち最高!!』って言ってるので困惑しました。もう5月も下旬だよ……ねぇきみ、正気?」
「正気も正気、大真面目です。人に頼って他人に迷惑を掛けて生きざるを得ない人たちと馴れ合うなんて必要あります?」
「いやいやそこまで言うのは酷くないかな!? 先生同級生に虐められてるか心配だったんだけど……ほら、君の隣の席に座ってる子に絡まれるとか、また隣であるからって恨みを買ってたりとか」
「……?」
「いやはや最近の子はどうも、強く生きてるねぇ……ま、問題ないならいっかなぁ。実は寂しいとか思ってない?」
「べ、別に友達欲しいだなんてそんなこと思ってたりしないんですからねっ!!」
「……もう帰ってもいいよ碓氷くん」
────一礼して僕は職員室を出た。
廊下を移動するにつれて人通りが多くなっていく。騒々しいことこの上ない。あ、そこ放課後だからって横一列で廊下塞がないでくれる? 避け切れないから、っとぉ走ってこないでよあぶな!!?
運動部めぇ……完全に僕のこと見えてないよなぁこの人たちは!!
教室に辿り着いても、僕の机に座る奴らが居る。彼女には構わず席に着いて帰りの準備する。目の前に尻。なんだほんとみんなして僕のことが見えてないみたいな反応、僕が孤独にして最強のぼっちじゃなかったら君たちなんてポイよポイ。一握りでポイー。
人間、顔面がよかったら許されると思うなよ!! なあ!!?
「っ、あ、ごめんね?」
「や、べつに……」
──許しちゃうね、うん!!
待て。待って欲しい。僕はべつにチョロインじゃない。べ、別に誰彼構わず許す訳じゃないんだからねっ!? 座ってるのが女の子だからとか昔馴染みつーか幼馴染だからとかそういうわけじゃないし、そも、よくよく考えたらここでやることなんてないから帰るだけだからねっ!! 勘違いしないでよねっ!?
そうこれはそれだけの話。目の前の尻(ド失礼)とは全く面識もないし、さっき呼び出された通り僕のことを知ってる人なんてこのクラスには一人としていない事は確定的に明らか。……いや確定的に明らかに知ってるやつはクラスに居るのわかってるけどけどほら、無視してきてるし、ほらほら、この目の前の尻め。
だがこれは僕が望んでやったことだ。ああそうだ! ぼっちじゃなかったら無駄に放課後の時間を浪費してしまうに違いない!! 目の前の尻みたいに放課後教室でぐだぐだしたりなんかせず!!! 帰ったらアニメ見たいし、ゲームしたいし遊びたいのだ!! そういうお年頃なのだ!!
そうだ、昨日のあれとか。断ってよかった。そう。そのはずだ。
流れのままに頷いて、隣の席のリア充の極みみたいな女子高生に現を抜かしていては悠々自適なロンリーライフg──
「うーすいくーんっ!!」
──aががががががっくっ、黒峰さん!?アイエエエエエ!?!? 黒峰サン!!? 黒峰サンナンデ!?
……彼女に話し掛けられた瞬間、クラスに残っていた人たちが全員こっちを見たような気がした。
「えfっ、おoぇhっ!? んjadんnんnm?? はぇあ!??」
人語を話せ僕。
いやでもほらまってよ、わかる? いやわかんねぇよ落ち着け僕?? どういうことだ、言ってみろ。
えーほら、誰だって、学校で先生以外に話しかけられることがない状況で学校一の女の子から声をかけられたらさ? 誰だって壊れるじゃん? ぼっちはそれはそれは全身がCDの読み取り面みたいな耐久しかないものなの。下手に触れれば簡単に傷がついて壊れちゃう。例えば自分の身長以上の凹みに落ちただけで死ぬし、コウモリのフンで死ぬレベル。スペ○ンカー先生かな?
しかもそんなぼっちに向けてなんでこんな後ろから肩を叩くなんて──やたら近いね? 概念的に女の子が近づいてくる距離なんて衛星軌道までが限界じゃないんですか? 近付いたら第二宇宙速度維持できなくて墜落しますよ??? 彗星にすらならないで消える。
「ごふっ、えほっ」
やば、噎せた。
こうなってしまえばどうしようもない。ぼっちとして鍛えた現実逃避術をフルで酷使して自爆するしかねぇ……!!! ぼっち最強? 誰ですかそんな妄言を吐いたやつ。顔を見てみたいね。は? 鏡を見ろ??
「だ、大丈夫???」
「も、もーまんたい……」
「本当に??」
「本当にです……な、なんのようですか、黒峰さん」
「何って……そんなの決まってるよ」
黒峰さんはくすりと笑う。見る人が見たらそれだけで心臓が止まりそうだ(なお僕は顔を見れないので雰囲気も察せないくせに死……)。
って。え? 決まってる? 何が?
昨日、カフェで遭遇した件については昨日の時点で終わり。もう僕に用はないはず。ないよね?
昨日は丁重……いやバッサリお断りしちゃったわけだし、最早影が薄いだけが取り柄のぼっちに用はない。用済みなので東京湾されてしまうまでありそう。
……そうか。
僕は黒峰さんが『怪盗ノワール』とかいう実績もなにもない痛い子だってことを知らされてしまっている。
だがそれは本当か?
本当に学校で一番の美少女(新聞部調べ)の子が放課後中二病を拗らせたみたいな事をしていると思うか僕よ??
現実を見てみろ。この清楚が服を着て歩いているみたいな美少女。これが猫被ってるだけだって?
あの閑散としたカフェで『怪盗ノワール見参』とか叫ぶ痛い子と同一人物に見えるかこの人が。
否ッ!! 断じて否であるッ!!!
…………いやまあ半信半疑くらいだけど。リア充って腹芸得意そうだし? まあそれはいいとしてだよ。
もし本当に昨日考えた通りにヤバい怪盗だったとすれば、正体を知っている僕は邪魔に違いない。
────つまり、これは脅しだ。
僕はまだ東京湾(動詞)されたくない……っ!!!
「私が怪と────「うわああああああ、あ゛ッッ!!?」────び、ビックリしたぁ」
黒峰さんの言葉を遮って僕は立ち上がる。僕の机に座ってた人も急にびくーんって跳ねるように机から退いて机が僕の太ももにドス──っ痛ッッづぁ!?!?!?
「わわっ、大丈夫!? えーと……」
僕の机に座ってた人が椅子に座り込んで悶絶する僕に申し訳なさそうに……って、クラスメイトの名前も覚えてないのかこの僕の机に座ってた人は! 僕の机に座ってた人め……ごめんこんなアホみたいな自爆したの結構恥ずかしいのでそんな気にしないで……。
「あ、だいじょぶ…………うん、僕がさけんだのがわるいし……」
「は……? いやそうじゃなく──」
「そ、それじゃ……」
僕は恥も何もなく超転がって悶絶したいところを無理矢理抑えて、荷物を持ってふらふら歩く。
机に乗ってたなにか文句でも言いたげにしている女の子と呆然としてる黒峰さんに見送られながら廊下に出てダッシュで逃げた。
いやだまだ僕は東京湾に沈みたくない……ッ!!
◆◆◆黒峰藤乃◆◆◆
うわあ、痛そう
「そ、それじゃ」
…………そう言って、教室を出ていく碓氷くん。
………………。
あ、もしかして着いてこいってことかな!!? わかったよ碓氷くん!!!
◇◇◇碓氷影人◇◇◇
「────あれー、どこー? 碓氷くーん?」
僕はまっすぐに乗降口に向かわずに全く別方向の第二物理室に逃げ込んだ。
……最初曲がるまでは追ってきてなかったと思うんだけど、声聞こえるってことは近いんだよねぇ。
昔から隠れることは得意だったしなんなら視界に入ってても気付かれなかったことまであったけれど、黒峰さんは僕のことを探している。あまり悠長にしてる時間は無いんだ、けど。
「なんだ貴様。誰に断って入ってきている?」
「…………なんでここに小学生が?」
ついポロっと言ってしまった。
目の前の少女は床にへたりこんだ僕より頭一つ分ほど高い身長で、ピンクのランドセルまで背負っているのだ。
ここは高校だよ。小学生が居たらおかしいじゃないか。
「だ……」
「だ?」
「だぁれがっ小学生だ貴様っ!! 見たところ二年だろうが、それにしては貴様は先輩を敬う心が足りないようだなっ!!!」
「いやだってそのランドセルは何ですかって……え先輩ぃ!? うっそだぁ、なんですかこのアーム僕の足に────ぃあああああああああああああ痺れるるるるる!?」
小学生先輩(幼女)の背負うランドセルから細い棒状の腕の先にわっかのような手の付いたロボットアームが出て来て僕の右足太腿を掴んだらバチバチと電気を流された。あばばばばばば。
今日はなんなの、厄日なの!? 絶妙に痛気持ちいい位の電撃って弱さ的に喜んでいいのかなあああ あ あ あ あ じびれるぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!?
「なにと勘違いしているっ! これは六年間普通に使用しても壊れない高性能なリュックでありランドセルではない!! これは機械を詰めるのに最適な形状をしているだけであり、けしてランドセルなどではないぞ!!」
それはランドセルでは!?
「ちょ、せんんんんんんんんんぱいいいいい、あやまりますからららら!!!」
どうみてもピンクランドセルだ。
まだ電流が流れているので呂律も回らない。痺れて悶絶する僕を一分ほど見下ろした幼女先輩はそれで満足したらしく、手に持ったリモコンのようなものを操作した。
「まあいい、止めてやろう」
「…………ぐ」
電流は止まった。足を持ってたロボットハンドもランドセルへ帰っていった。にしてもいちいち高圧的な態度だ。体は小さいのに。
「しっかし、外の立ち入り禁止の立て札を見てなかったのか? 確かに立てておいたのだが、ふむ。倒れていたか」
「…………立ち入り禁止?」
立ち入り禁止になるような何かが第二物理室内部にあるようには見えなかった。例えば空調工事だとか、そういうのは影も形もない。
僕としては、暫く隠れ潜んでいたいので立ち入り禁止って黒峰さんが勘違いしてくれる状況のままがいいんだけど。
「いや、その、逃げてて慌てていたので……マジですいません。色々失礼しました」
「…………まあいい、だがもう二度と私に向かって小学生などと言うでないぞ。次はない」
威圧するようにカチカチとロボットアームが指先を鳴らす。しかも物騒なことに指先が合わさる度にバチバチ放電してる。こっわぁ……。
「で……せっかくだ。暇潰しに聞いてやろう。逃げてた、とは何からだ?」
「実は同級──「失礼します、あ、碓氷くんやっと見つけたー!」──…………まずっ!!?」
「待て逃げる気か?」
「ちょっ、またロボットアームやめ、うわこれ硬ッ!!?」
今度は両足をロボットアームに取られてしまった。座り込んで両手で外そうと歯を食いしばって握りつぶす勢いで力を加えてみたけど、びくともしない。
「ふむぅ……これは、いいかも」
黒峰さんは顎に手を当てて少し考え込むと自分の鞄に手を突っ込んだ。
……『いいかも』って何……??
「く……黒、峰さん? なにをしようとしているの──あぶなっ!?」
僕はなんとなく嫌な予感がして黒峰さんの鞄へと手を伸ばした。
それで逃げると思ったのだろうか、幼女先輩のロボットアームに引っ張られて吊り上げられる。
完全に浮いた。このロボットアーム、細い見た目に反してパワーが有りすぎないですかね……?
「あの、僕の体重普通に五十キロ超えてるんだけど? こんなパワーのロボットアームをランドセルから伸ばした幼女(年上)ってちょっと個性が過ぎな──」
カチ(スイッチ操作音)。バチバチバチィッ!!!
「──ぁ"あ"!!? ちょっ、うわ、いま電撃は頭に血が昇ってキツいんでやめて!!!?」
「口の聞き方が成ってないな。年上を敬う心が足りてない。電撃を流されたいらしいな」
「そんな脅しには屈しませんよ、暴力反対!! 流してから言わないでくださいよ!? 暴力ヒロインはきょうび受けないですしやめた方がいいですがががががが!!?」
「ヒロインではない、ほら、見てくれ。私は無手、到底暴力など振るえない貧相な体だ。そして貴様を吊るしているのはこの『ハイパーハンドくん二十四号』だ。ははははは!!! 実際に使ってみたかったのだよ!! いいぞマスターハンド!!」
「名前変わってるじゃねぇか!!」
「コントローラーはこの某家庭用のゲーム機のコントローラー。ジャイロセンサーも完備だぞ??」
「完全にスティック二本に十字ボタンとABXYボタンて……プ○コンだこれ!!」
「任○堂製じゃなくてホ○製だから○リコンだな」
「なぜ廉価版……?」
「因みに横Bでハンマー、上Bでカッター、下Bで岩石を鞄から取り出す。Bボタンだけだと吸引機能だな」
「コマンドが完全にピンクの悪魔じゃねぇか!!!」
「Bを長押しして吸い込んだあと下入力で動きも学習できるぞ」
「コピー能力まで!?!?」
「くくく、どうだ分かったか? これが『シェイクハンド四十二号』の力だ」
「最初と名前が違ってないか!!!?」
幼女先輩は何か満足したようで、俺はゆっくりと地面へと下ろされた。あー、頭に血が上りすぎてヤバかった……。
「…………ふふっ」
「え、なんで笑っ……はぇ?」
笑い声に釣られて黒峰さんを見ると仮面をしていた。昨日の記憶が甦る────忘れもしない、その名は怪盗ノワール。(自称)夜闇を駆ける怪盗義賊である。
だが、いきなりなんの脈絡もなく仮面をつけるって、大丈夫かな……? というか黒峰さん!? なにする気なの!!?
◆◆◆黒峰藤乃◆◆◆
私は仮面を装着する。目元だけ隠れるおじいちゃんがプレゼントしてくれた仮面だ。これだけで、普段の百倍は愛と勇気と気合いが溢れてくる気がするね。
「どうも、プロフェッサー」
「貴様……いきなりどうした? 頭飛んでるのか?」
ひ、ひどいぃっ!! ただ仮面をつけて話し掛けただけなのに!!
「だいたいプロフェッサーでは教授だ」
「ふぐぅっ!!」
語感で選んだのがバレちゃう……バレてない?
「呼ぶなら……そうだな」「あー科学者ちゃんとかどう──あばばばばばばばば!!!」
「碓氷くん大丈夫っ!?」
ばちばちと数秒間電気が流れてのたうち回る碓氷くん。のちにサムズアップだけがかえってきた。碓氷くん……。
「こんなこと……ひ、酷いよ科学者ちゃん!!」
「あ゛あ゛ん゛?」
「ひぅっ!」
ガチ睨みである。こわい、ちっちゃいのに怖い……。
でも、頑張らなきゃ。だって碓氷くんがあんなに体を張って応援してくれてるのに私がなにもできないなんて……そんなのダメだもん!!!
それにほら、あれを見て、あの子のランドセルの中身!!
みーにょみーにょん、ってへんな音が聞こえてくるあのランドセル。その中身は、きっと何かの機械に違いない。よくわかんないけど。
電撃を放つロボットアームなんて見たことがない。開発者か、それに近いってことは確定的に明らか。たぶん。よくわかんないけどきっとそうに違いないよ!!
碓氷くんが、この子を見つけてくれたんだよね!!
うわー、碓氷くん、口では手伝うなんて無理なんて言ってたけどちゃんと考えてくれてたのかな。考えてくれてたんだよ、きっとそうにちがいない! そうだよね碓氷くん(未だにサムズアップ続行中)!!そうだって碓氷くんも言ってるよ(言ってないが)!!!
だから碓氷くんのためにも彼女を『怪盗ノワールちゃんの怪盗団』の技術担当としてスカウトしなきゃだよね!!!!!
よ、よぉし!! 頑張るぞ~! 実は自信はないけど碓氷くんも見てる(突っ伏して倒れてる)!! 彼の前でならいける気がする!!
「わ、私は趣味で怪盗をしている者です」
「かぁいとぉう~???」
「そう!! 怪盗!! 闇夜を駆けて世のため人のため財を盗む義賊、怪盗ノワール!!」
「義賊も怪盗も法規的にアウトだ」
「それ言ったら僕に向かって電気流す科学者ちゃあばあああああああ!!?」
「科学者ちゃん言うな」
顔だけ起こして余計な一言。また碓氷くんが感電してる。
「で、何をしているんだ、黒峰藤乃?」
「それは怪盗らしく、悪人から盗みを働き正義を為すのですよ。それと私は怪盗ノワールです、黒峰なにがしとはちがうのです」
「黒峰藤乃」
「怪盗ノワールちゃん」
「黒峰藤乃?」
「科学者ちゃん」
「だからその名で呼ぶなぁッ!!!」
「わわっ! あぶないっ!」
私は伸びてきたロボットアームを逆に掴み返した。
……どうやら腕部分なら感電させてこないみたい。腕も五本目は出てこないみたいだし、これはもしかして説得できるかも?
そう思った私は力任せにアームを引っ張って科学者ちゃんを引き寄せた。
「ぃっ!? 黒峰藤乃、離せっ!!? この、力強ッ!!? 馬鹿力か!!?」
「ねぇ、私の仲間になってよー!」
「まて放せ壊れるゴリラ女!! やめれッ!!! あっ、しまったランドセルの肩紐を体に完全にロックしてしまって外せんっ!!! 中に手も届かん!! くそぅそしてそもそも私のからだが硬い!!」
「ふふーん、放して欲しいなら分かるよね?」
「分からんな!! わ、分からんぞ……? だが、だがな? そのアームに力込めるのやめてくれるとありがたいな……? ね? 良い子でしょ黒峰藤乃? よっ美少女!! 美少女がそんな怪力するんじゃないよ壊れちゃうじゃないか!!」
「いーいーのーかーなーぁ!?」
「あああああああアームがみしみしゆってる!! みしみしいっちゃってるぅぅぅぅ!! やめて!! 大事な機械なの!! 大切に扱って!!! ね!? 良い子でしょぉ!!?」
「大切に扱って欲しいんだ? ふーん?」
みしみしと音を立ててるアームは人(?)質だよ!!
「なら、ね?」
わかるよね、科学者ちゃん?
「こんの、性悪女ぁぁぁぁぁぁぁ────!!」
この後めちゃくちゃ説得した。
◇◇◇碓氷影人◇◇◇
「────と、言うわけで碓氷くんのお陰で新しく技術担当として我ら怪盗ノワール団に科学者ちゃんが増えたよ!! これはその祝杯で、あーる!!」
先日因縁のあったカフェへと黒峰さんの手によって連行された僕はよく分からないノリで渡されたブラックコーヒーに口を付ける。
……うん、まあまあにがいけどおいしい。
黒峰さんもブラックコーヒーを頼んでいたのだけれど、僕の方をチラチラ見ながら大量の角砂糖を投入しているのが見えた。
……ここには僕しか居ないんだし、苦いの苦手なら別のを頼めばいいのに。
「いや、僕は何もしてないし」
「いやいやぁ、謙遜をしなくてもいいんだよ?」
今、黒峰さんは仮面をしていた。目元だけ隠れる仮面なのでコーヒーも飲める。
にしても余程コーヒーが美味しいのだろう、仮面の形的にすごい頬が緩んでいるのがまる見えである。
まあこのご機嫌さなら、今すぐ東京湾になることはないだろう……でもどうしてまた黒峰さんといっしょにカフェになんて来ているのかが分からなすぎてこわい。
「あ、碓氷くん、それやっぱり苦いよね?」
「…………いや、そうでもな、」
「そんな碓氷くんには角砂糖を一つプレゼント~!!」
黒峰さんは無理矢理角砂糖を僕の飲んでいたコーヒーに投入してにへへと笑う。
ええ……ブラック、好きだったんだけどなぁ────と思いつつもかき混ぜて砂糖を撹拌する。そして一口。
「どう? 甘いでしょ!?」
「…………まあ、甘い」
「でっしょー!?」
ブラック以外ないなって思ってたけど…………悪くないな。これくらい甘くても。
「怪盗ノワールちゃんはなんでも完璧にこなせるのです!!」
「そっか」
今日だけで死ぬほど電気流された気がするけど、楽しそうに笑う黒峰さんのお陰で疲れが吹っ飛んだ気がする。足もなんかそんな痛くないし。
……まあ教室から逃げ出したところから全部が全部黒峰さんのせいだって事ともとれるけど。そうしてしまえば、黒峰さんのせいで生まれた苦労を中和するのが黒峰さんって事になって……だったらまあとんだマッチポンプみたいだよね……。
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