隣の席の人の知ってはいけない秘密を知ってしまった僕はもうダメかもしれない。
リョウゴ
一章〈隣の席は学校一の美少女です〉
前編:怪盗ノワールと愉快な仲間たち
第一話『僕が好きな隣の席の女の子は怪盗になりたいらしい』
薄暗いカフェに高校生二人組。男……僕の方はともかく、女の子は街で見れば百人中百人が振り返るような美少女だ。
普通ならおやデートか? ともなるかもしれない。だが待って欲しい。
「これより第1回怪盗ノワールちゃんプロデュース会議を始めます!!」
この女、仮面をしている。そりゃ目を惹きます。実のところ僕と店員さんしかいないんだけどね。
仮面だけだったらよかったのだが、ゴスロリファッションとでも言おうか……フリフリなワンピースを着ている。黒い。似合っているから尚の事ひどい。
「………はい」
「はい碓氷くん挙手早かった!! どうぞ!!」
「やめよっか??? というか僕まだ状況が掴めてないんだけど、黒峰さん。……ほんとうに黒峰さん、なんだよね? 似合ってるけどさ……」
「……まさか、バレてなかった……!? 碓氷くんは放課後私を尾行してこの隠れ家にたどり着いたんじゃなかったの!? そうよ私は怪盗ノワール!! その黒峰藤乃なにがしとはべつじんよ!!」(どやさ)
「いやわかったよ君の反応で何の間違いもないことが。名前まではまだ言ってないし」
「エッ……あ!!!? ほんとだ!!」
目の前の仮面の人は僕と同じクラスの女子……しかも新年度学内美少女番付・一位(新聞部調べ)の黒峰藤乃。
勿論学内では超有名人である彼女が、放課後露骨にコソコソと周囲を気にしながら向かったカフェで──
『怪盗ノワール見参!! ……違うわね……あなたのハートを頂戴しよう。……これもしっくりこないわね』
──とかやってる場面に遭遇したんだ。そりゃあ違う可能性が一%でも可能性があったら賭けたいよね。
むしろここは怪盗ノワールなんちゃらということで通してもいいのかも……いやまあ手遅れだよね。
でも怪盗ってなんだろう?? 厨二病の類……だよね? いや、違ったとしたら怖いよ。マジじゃん。
「えっと、何の会なのこれ」
「第1回怪盗ノワールちゃんプロデュース会議」
「怪盗ノワールっていうのは、君だよね?」
「そうよ! 私が怪盗ノワール、街の闇を駆け、民草の為に活動する義賊!!」(どやさ)
高らかに宣言し、自慢気に胸を張る黒峰さん。フリルの沢山あしらわれたゴスロリな服だから実際よりも嵩が増しているように見えてどれほどか分からないがあれは間違いない……でかい!!
「……って、店員さんに聞かれちゃってるけど良いの?」
「いいの、ここ、お祖父ちゃんの知り合いの店だから」
おおー、ぽい発言だ……って感心してるじゃない。なるほど、この店は黒峰さんの身内なのか。そっかぁ。
…………あの明らかに人を殺してそうな(偏見)サングラスの厳つい店員さんも、身内。
さて。ここで怪盗がガチで怪盗だったら?
────秘密を知ったからには生かしておけないとなるのが自然の摂理……!!
「すいません命だけは助けてくださいまだ死にたくないんだあああああ!!」
「ちょっといきなりどうしたのよぉ!!」
テーブルに頭突きする勢いで平伏するとわたわたと黒峰さんは慌てだした。
…………あれ?
「……僕をコンクリ詰めにして東京湾するんじゃないの??」
「東京湾するってなによぅ……物騒な事? そんなことしないわよ、どんなことか分かんないけど」
「違うの??」
「その顔、分かってない顔ね? いいわ教えてあげる、私が何者なのかをじっとりとね」
「じっとり…………!!?」
何それエロそう!!
────ってそんなこと言うわけわけないだろ、僕だってそれくらいわかるよ。
……で、どんなえっちなことを教えてくれるんですか???
「間違った、じっくりとね。……何よその顔」
ぐいっとお向かいさんが顔を寄せてくる。
「い、いや?」
「もう、変な碓氷くん」
「──ンン”ッ」
むくれながらそんなこと言われても可愛いとしか思わないんですけ「ゴホッんぐ」顔を逸らして咽せた……何の話だったっけ。
「怪盗ノワールについて、聞きたいのよね?」
「そうそれ、なんなんだろうなぁって」
「怪盗ノワールって言うのはね……怪盗義賊なのよ。世のため人のために悪者から財宝を奪い困っている人に、」
「…………」
「何よその呆れたような顔は!? 」
どんな顔か僕には分からないけど概ね呆れています。
「活動実績は?」
「高さに怯える子猫を木の枝から盗み取ってやったわ!!」
「活動実績は?」
「だから子猫を…………」
「子猫。」
「はいごめんなさいほっっっっとんど何もしておりません!!!!」
「いや実績は」
「容赦無いね碓氷くん!!?」
黒峰さんは半ば涙目になって叫んだ。
いやぁ、よかったー!! 黒峰さんはまだ悪い事してないのか!!
いや良いことか? 良いことだ?
「やめたら? 怪盗」
「どストレートになんてことを言うのさ!?」
「だってほら、良くないよね。盗みだよ? 法に触れてるよ?? ほら、スーパーとか本屋とかお店が潰れる原因の中でも盗みはかなり重いって聞いた事あるし、考え直そう?」
「せ、正論……胸が痛い」
ぐぬぬ、と黒峰さんが胸を力強く抑えるジェスチャーをした。
視線が黒峰さんの一部位に吸い寄せられたのは不可抗力です。
「何でこんなことを……??」
「ええと……ど、どうしてもやりたくて……」
理由になってない。
「そっかあ」
僕もそっかあで済ますな?
「でも本当の所、怪盗になるにはどうしたらいいか……分かんないんだよね」
「そっかあ」
そっかあ。僕も完全に思考停止で答えていた。別にならなくてもいいと思うよ。うん。
黒峰さんはそこで一度外を見たのにつられて僕も見る。辺りは薄暗くなってきていてちかちかと街灯が点き始めていて、さらに時計を見た。
18時。結構な時間だった。
「あっ、もうこんな時間かあ……」
「黒峰さん、帰りは大丈夫? ある程度なら送って行くけど」
「大丈夫! 怪盗を志す者にそんなものは必要無いのです!!」
「あっはい」
即答で断られた。笑い事じゃないけど、つい笑いそうになった。笑うどころじゃなくて泣きたいが??
黒峰さんには全く脈はないようです。まあわかってたけどね? ショックよりもまあ安心したところの方が大きいし。
……ってあれ!? そんな理由で大丈夫って言ったこの子!!?
「あー、でも、そうだ、碓氷くんさえ良ければ!! 良ければでいいんだけどさ?? ……私が怪盗として活躍出来るように相談しても、いい……かな?」
────なんて躊躇いがちに黒峰さんは言ってきた。仮面をした学校一の美少女のお願いだ。それだけで凡百の男子高校生であれば考える前に首を縦に振ってしまいかねない威力があっただろう。
……本当にそうなの?? まあ僕はまともに人の顔が見れてないので関係ないですね。
でも怪盗。怪盗だぞ!? 怪盗……?
女子高生(16歳)が怪盗って、尖り過ぎじゃない?こんな平和な日本の中でも都会でも田舎でもないような中途半端な土地に暮らす女の子に何があってそんな事をしたくなっているのか分からないからね。
「ごめん無理かなぁ」
「えっ」
──だから僕は断った。だいたい一番最初に頭を過ったのは、万が一にも怪盗行為をするなら僕の身が危険だからね、なんていう保身だった。
最低だ。しかも、僕がそう言ったとき黒峰さんはまるで想像してなかった裏切りを受けたかのようで、本当にショックを受けているみたいな顔をしてて。
だから。
「えっと、でもうんそうだなぁ応援するよ!? 怪盗、頑張ってね!?」
「……っ、あ……ありがと」
そんな、中途半端なフォローを、してしまったのだった。
◆◆
────初めてだった。
私は、黒峰藤乃は、昔っからおじいちゃんっ子だった。
おじいちゃんは凄いよ、どこどこの博物館からダイヤを盗み出したとか、わっるーい金持ちから悪趣味な胸像を奪い取ったんだとか、いっぱい話してくれた。
元は悪名高い怪盗だったって、鼻高々に話してくれるおじいちゃんが好きだった。
でも、家族みんながおじいちゃんのことを白い目で見ているのは知っていた。ほかに聞き入っている親戚の女の子が一人だけ居たくらいで、他の人は誰一人として好意的に思っていなかった。
こういってはあれかもしれないけど、私は家族みんなに気に入られていたみたいで。そんな私に悪影響を及ぼさないか、家族みんな目を光らせていたのだ。
だから今日みたいに、こうしてコソコソと怪盗っぽさを求めて仮面をしておじいちゃんの知り合いの経営するカフェでポージングしてるって知られたら卒倒するかも。
そうやって、ずっと隠れて憧れていたから、初めてだったのだ。
────誰かに怪盗っぽい掛け声を練習するところを聞かれるのは。
────怪盗っぽい服を一生懸命考えて、考えた末に選んだ服を『似合ってる』って言われるのは。
────そして怪盗っぽい事に憧れているのだと話すのは。
『応援してるよ。頑張って!』
そんな今日の事は何もかもが初めてで。
「──〜〜っ!!!」
あの言葉を思い出すと体が熱くなっちゃって。ふわーってしちゃってなんだかもう、なんだろ。
……応援されちゃった。応援かあ、それもまた初めてだったかもしれない。
「よぉしっ、明日も怪盗ノワールは頑張っちゃうぞー!!」
だから碓氷くん、明日の私の事も見ててよねっ!!
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