第11話 紅茶と初エッチ

(それから時間を見つけては、体育館の裏にある元文芸部の部室に通うようになった。


 原稿用紙にすらすらと物語を書ていく桃ヶ崎甘奈さん。


 そこに迷いも戸惑いもない。


 桃ヶ崎甘奈さんが持つ万年筆は、筆魔法の杖のよう。


 木漏れ日が差す、小さな部屋。

 丸テーブルにティーカップ。


 原稿用と万年筆。


 この空間が、たまらなく愛おしく思えた。


 当初、桃ヶ崎甘奈さんは私がそこに通ってくることを反対していたが、私が先に行き、室内の掃除をしたり、紅茶を入れて待つようになると、にっこり笑って歓迎してくれるようになった。


 そうして桃ヶ崎甘奈さんは、私が主人公の物語を、私と話をしながら進めていくようになった。


 どこにでもいる普通の女子高生の日常が、桃ヶ崎甘奈さんの頭の中で化学反応を起こす。


 そして素敵な物語として生まれ変わる。……あくまで想像だけど。


 読みたいなぁ。と、リクエストすると決まって桃ヶ崎甘奈さん『完成まではダメです。』と原稿を隠した。


 でも、我慢出来ずに、桃ヶ崎さんがトイレに行っている間に盗み読みをしたことがある。


 そこには、ひとりで悩んだり、泣いたり、笑ったりする実際の私よりも私らしい、女の子がありありと存在していた。


 当然のように、私は桃ヶ崎甘奈さんが書く小説を好きになっていた。


 桃ヶ崎甘奈さんは、小説の筆が止まると決まって、私にキスを求めた。


 私は、桃ヶ崎甘奈さんのキスが、桃ヶ崎甘奈さんが書く小説と同じくらい好きになった。

 


 ある時。

 桃ヶ崎甘奈さんは、カーテンを閉めると、私の制服を脱がした。


 そのまま全身にキスをした。

 桃ヶ崎甘奈さんのキスは甘い刺激に溢れていた。


 気持ちのいいところを、舌がゆっくり舐めてくれた時は、どうにかなってしまいそうで声が漏れた。


 そんなある日。

 桃ヶ崎甘奈さんから舐めて欲しいと言われた時は正直戸惑った。


 私は男の子のそれも。女の子のそれも見たことがなければ触ったこともなかったから。


 ましてや、舐める。なんて信じられなかった。


 桃ヶ崎甘奈さんは制服のスカートを脱ぐと、椅子に座って両足を開脚させた。

 そこに、桃ヶ崎甘奈さんの大切なものが、見えた。


『舐めて欲しい。お願い。』


 顔を持たれて、デリケートゾーンに誘導される。


『舌が欲しいの。』


 ゆっくり伸ばして、上下に動かす。


 びくっびくっと、デリケートゾーンが反応し、気持ち良さそうに声を上げる桃ヶ崎甘奈さん。


『初めてなのに、上手ね。』

 って褒めてくれた。


『舐め合いっこしよう。』

「うん。」


 時間が止まったように、2人はキスをデリケートゾーンに繰り返した。


 私はこの日の初めてを、一生忘れないようにしたいと思った――。



 この時を境に、私は下着に気を使うようになった。


 桃ヶ崎甘奈さんに見てもらいたくて、桃ヶ崎甘奈さんが可愛いね、って言ってくれそうな、シンプルだけどちょっと可愛いものを選ぶようになった。)




「……どう、だったかな?」


(完成した小説の原稿を読み終えたところだった。)



「ふぅ〜、ご馳走様でしたっ! まず、完結!!! おめでとうございます!!! ここには、私の知らない私が、何気ない日常にドキドキしながら精一杯生きる青春がありました! 本当に書いてくれてありがとうございます!」



「そんなに喜んでもらえて嬉しい。それ、菜乃葉さんにプレゼントさせて」



「っぇぇぇぇええええええええ!!! もらっていいんですか? ネットにアップしたり、コンテストに応募しなくていいんですか?」


「最初から、プレセントするつもりで書いてたし。」


「お断りするのも変ですし、嬉しいので! お言葉に甘えて! でも……ひとつだけいいですか?」


「どうぞ」


「タイトルの部分が空白なのは、これでいいんですか?」


「あっそうそう忘れてた。ちょっと原稿を貸して。最初から決まってたの。でも、少しだけ迷いがあった。今は、これでなきゃって思えるタイトルなの。」



(タイトルの空白を、一文字一文字丁寧に埋めていく桃ヶ崎甘奈さん。


 書き記された文字を、私はゆっくりと読み上げる。)



「一杯の紅茶から始まる、うぐいすさんの初恋――。」



(私はその原稿を大切に大切に、抱きしめた。)




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女の子と女の子の恋事情 木花咲 @masa33

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