021 『天は二物を与え過ぎ! キュアミナト!』

 女の子と言えばプリキュア、プリキュアと言えば女の子である。

 蓮花れんかはもうプリキュアが本当に大好きで、将来の夢は当然プリキュアだ。

 大人ならそんなの絶対に無理だよと分かっているけど、子供の夢を否定出来ない。僕も昔は仮面ライダーになりたかったし。

 そもそも、うちにはマジでプリキュアが居る。


 ––––みなとだ。


 湊はモデルの仕事の一環で、プリキュアの衣装モデルをやった事があるのだけれど(小学生のモデルということで採用されたらしい。本人は不本意だったそうだけど、蓮花が喜ぶからと渋々受けた)、それを見た蓮花は、湊のことを本物のプリキュアだと思うようになってしまった。

 湊は髪の色がコロコロと変わるので、それも変身していると思っているようだ。


 それに付き合って、変身してあげる湊も湊だけど。

 オリジナルの決め台詞まで用意してな。


『天は二物を与え過ぎ! 人が行き交う、船着場! キュアミナト!』


 これは僕が彼女に、『湊』という名前を付けた由来でもある。

 初めは『かなで』が良いと思っていた。『奏』という文字の中に、『天』という文字が沢山入っているので、多くの才能に恵まれてますようにと願いを込めて(本当に恵まれちゃったよね)、『奏』にしようと思った。


 しかし、多くの人が周りに集まるような場所として、『みやこ』とかもいいと思った。そこから、『そうだ、港は人が行き交う場所じゃないか!』と思い付き、『奏』に『さんずい』を付けた『湊』になったという話だ。

 この話を聞いた湊は、えらく自分の名前を気に入るようになったので、名付けた僕としてはとても嬉しい。

 それが、キュアミナトになっちゃうとは思わなかったけど。

 自分で『天は二物を与え過ぎ!』とか言っちゃうんだ、とか思ったけど(事実だから否定は出来ない)。


 湊はプリキュアをそこまで好きなわけではないのだけれど、蓮花に付き合ってあげて変身しているのはなんだか微笑ましい。

 今日は僕がやらないといけないんだけど。


「えーと、見た目は子供! 中身はお父さん! キュアショウタ!」

「えー、パパは男の子だから、プリキュアにはなれないよー」

「知らないのか蓮花、最近は男の子でもプリキュアになれるんだぜ」

「まじー⁉︎」

「まじー!」

「じゃあ、必殺技は! 必殺技はなんて言うの⁉︎」

「えーと、プリキュア! ミニマムチェンジショットだ!」

「どうなるの⁉︎」

「当たると小さくなる」

「すげぇー!」

「だろ!」


 ノリノリでプリキュアごっこをする僕だった。




 *



 湊特製、ガーリック肉味噌チャーハンをお昼に食べて後(めちゃうまだった)、湊は少し離れた所でテレビを見ている蓮花をチラッと見てから、僕に話しかけてきた。


「レンちゃんさ、お使いデビューしたいんだって」

「あー、奈月から聞いたよ」

「今日どうかな」

「いや、無理だろ……奈月が風邪引いてるんだぞ」

「どっちにしろママは家に居るんだから、関係なくない?」

「確かに」


 お使いなのだから、家の人はお留守番だ。関係ないと言えば、ない。僕は違うけど。


「でも何を買わせに行くんだ? 晩御飯のおかずか?」

「あー、えっとね、さっきママにいたんだけど、今日はカレーだったみたいで、食材も全部あるんだよねー」


 ちなみに奈月カレーはめちゃうまだ。僕は三食カレーでもいい。

 カレーの日は多めに作るので次の日も当然カレーになるのだけれど(大体の家がそうらしいよね)、八重垣やえがき家はみんな大喜びでカレーを食べる。

 それくらい奈月カレーは美味い。


「じゃあ、今日はカレーになるのか?」

「そうだね、その予定だよー」


 奈月カレー改め、湊カレー。

 どうしても、海を連想してしまうような名前だ。


「一応ママのレシピは知ってるから同じ物は作れる––––というか、もう下準備はしちゃったから、いいよね?」

「まあ、別にいいけど」


 いいも悪いも、下準備をしちゃったならそうするしかないだろうし(カレーに下準備があるなんて初めて知った)、作るのは湊なのだから、僕は文句を言う権利もない。


「なら、おつかいの品はどうするんだ? 材料は全部あるんだろ?」

「あ、プリンがいいかなって」

「プリン? ああ、奈月のか」


 八重垣家は、風邪を引いたら古来からプリンである。僕の実家もそうだった。


「和菓子屋さんあるじゃん?」

「あそこか」


 和菓子屋さんは、名前の通り和菓子を売っているのだけれど、なぜかプリンも売っており、これがめちゃくちゃ美味い。


「あそこなら、れんちゃんも何回も行ったことあるし、店員さんも顔見知りだからさ、いいんじゃない?」

「悪くないな……」


 湊のやつ、かなり考えてやがる。ふむ、確かにかなりいい条件が整っている。

 和菓子屋までは大きな交差点も無いし、車通りも少ない。


「さっきお店の人にLINEしたら、『待ってます』って言ってたし」

「根回しが早い!」


 そもそも、なんてお店の人のLINE知ってんだよ。あそこの従業員みんなおばちゃんだぞ⁉︎


「で、どうするの?」


 僕はしばし考える。まあ、条件は先程も述べた通り悪くないし、蓮花も風邪を引いた母親のためにプリンを買ってくるというミッションには、やる気を出すことだろう。


「よし、それで行くか」


 こうして、蓮花の初めてのおつかいが決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る