015 『お姉ちゃんと一緒にいなきゃ、ダメでしょ!』

 昼食後、再び二手に別れ、アトラクションを楽しんだ。

 個人的には、マスコットキャラクターと記念撮影をする楽しさが全く分からなかったんだけど––––いざ会ってみると、めちゃくちゃテンションが上がった。

 マスコットキャラクターの動きや仕草がとても可愛らしくて、なんかぬいぐるみとか頭に付けるカチューシャとか買っちゃた。ちょっと好きになっちゃったよね。


 僕は買ったばかりのぬいぐるみを抱きしめながら(奈月なつきが喜ぶからカチューシャも付けた)、撮った写真を見ていると、みなとからLINEが来た。

 内容を要約すると、『パパでも乗れそうな面白いアトラクションあるから、一緒に乗ろう!』みたいな感じのお誘いだった。

 奈月なつきにそのことを言うと、


「行っても構いませんよ、蓮花れんかも午前中に走り回ったせいで、少し疲れてしまったようですし」


 とベンチに腰かけ、眠そうにしている蓮花を見た。眠そうにしている姿さえ、可愛い(親バカだ)。


「なので、近くのカフェで少し休憩しようと思います」

「そうだな、蓮花は昨日も楽しみであんまり眠れなかったそうだし」


 僕もそうだった。旅行とか、学校の遠足とかの前日は、楽しみで全く眠れなかった。昨日はちゃんと寝たけどな。中身まで子供になったりはしない。

 それに奈月には運転もしてもらったしな。顔には出さないけれど、多分疲れはあるはずだ。

 今日は寝る前に肩でも揉んでやろう。僕の小さな手はこういう時は役に立つ(小さいので、ツボを的確につける)。


 僕はパンフレットを取り出して、湊が言っていたアトラクションの位置を確認した––––うん、割とここから近いな。すぐに着きそうだ。


「じゃあ、二人の所へ行ってくるよ」

「迷子にならないでくださいね」


 なるわけないだろ。子供じゃあるまいし。



 *



「…………えーと、現在地が、ここで……だからこのエリアにいるわけで……行きたいのは向こうのエリアだから、橋を渡って……いや、そこからはさっき行って行けなかったんだ––––だから、向こうから回って……」


 ………………………………白状しよう。

 迷った! なんでこんなに広いんだよ、僕の住んでる街よりも広いんじゃないか⁉︎ 人はいっぱい居るし、目線も低いから今どこにいるかよく分からないし、おまけにスマホも電池が切れて連絡も出来ないし! なんだこれ! 迷子か⁉︎ 迷子だ!


 でも大丈夫、僕は大人だからこういう時に慌てたりもしないし、泣き出したりもしない。

 まずはパークの人を探そう。それで案内してもらえばいい。分からないなら聞けばいいのだ。聞かぬは一生の恥だ。

 迷うなんてのは、子供だけではなく、大人だって当然あることだし、別に恥ずかしいことじゃない。初めての場所で、道を聞くなんてことは大人でも普通にある。

 あれだ、花火大会とかで知り合いとはぐれて、尚且つ連絡も取れなくて、お互いがどこにいるか分からなくなった時の別バージョンみたいなもんだ(謎理論だ)。

 だから、僕は迷子じゃない。迷ってるだけ。そもそも子供じゃないし。迷大人だし(なんて読むのかは知らん。多分『マヨオトナ』)。

 言い訳をするなら、人の多さと、目線の低さが合わさり、現在位置がハッキリしないことが原因だと思う。小さくなってからこんなに人の多い場所に来るのは初めてなので、こういうのは想定外だった。


 僕は落ち着いて、辺りを見渡す。パークの人を探す––––いた、パークのキャストと思われるお姉さんをすぐに見つけた。

 しかも何故か、お姉さんも僕のことを見ており、目が合うと、お姉さんは僕の方に向かって一直線に歩いてきた。

 なんで? なんで来るの? いや、確かに用はあるから来られても困らないけどさ。でも理由が分からない。あ、もしかして僕じゃなくて、僕の周囲に何かあるのかな……見てみるか––––右、左、後ろ、うん、特に何もなかった。


 そんなことをしている間に、お姉さんは僕の前までやってきた。

 僕がお姉さんを見上げるように見ると、お姉さんはニコッと笑ってからしゃがみ込み、僕に目線を合わしながら言う。


「迷子かな?」

「あ、いや、違っ……そうじゃなくて、僕は––––」

「大丈夫だよー、すぐにお家の人見つかるからねー」


 あ、これアカンやつだ!



 *



 予想した通り迷子センターに連行されると、迷子センターのまん前で奈月が、「もう、本当にしょうがないですねー」みたいな顔で待っていた。三姉妹を連れて。

 迷子になっているのを先読みされ、先回りされていた。


 奈月の話を要約すると、中々待ち合わせ場所に来ない僕を心配した湊が奈月に連絡を取り、奈月は僕が迷子になっていると推測を立て、この迷子センターに来たらしい。

 なんか、迷子になりやすい人のレッテル貼られてる気もするけど、本当に迷ったのだから、否定出来ない。


 眠気が覚め、少し元気になった蓮花れんかに「お姉ちゃんと一緒にいなきゃ、ダメでしょ!」と叱られてしまった。

 普段ならお姉ちゃんじゃないだろ––––と否定する所だけど、立場が立場なだけあり、こちらも否定出来ない。


 湊は奈月譲りの「しょうがないなー」スマイルを浮かべ、翔奈からは僕の名前と連絡先が書かれたシールを服に貼られた。これ、迷子シールってやつじゃん! 冗談にしては悪質過ぎるだろ––––と思ったが、どうやら冗談じゃないらしい。ガチのやつだった。


 その後、僕は両手を奈月と蓮花に拘束されながら、パレードを大人しく見た。

 大人らしく、大人しく見た。


 今の僕が大人と言えるかは、正直自信ないけど。

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