第7話 転生者~ヘンリエッタにて~
「わ、わたし……へたくそでごめんなさい。サキュバスなのに……あっ」
自分の腕の中で可愛らしく鳴く美女。
肌を重ね、腰を揺するだけで脳が溶けそうな感覚を味あわせておいて……この子は何を下手だと卑下するのだろう。
「いや、十分だ。それよりも……また、頼む」
腰の動きを止めることなく、じっと彼女の瞳を覗き込みながら言うと……。
「はい……ご主人様」
彼女は蠱惑的な瞳を淡く光らせた。
次の瞬間、体の芯に熱い一本の線が生まれたように感じる。
彼女の中でびくりと体が震え……行為が終わったというのに、いつまでだって彼女の中で暴れられる気がした。
「まだだ、まだ寝かせないぞ」
「えへへ……嬉しいです」
彼女のちいさな胸を撫でさすりながら、腹の中を擦りあげる。
「んっ……」
その度にひかえめな吐息をもらす彼女に満足感を憶えながら……僕は毎夜毎夜、冷たい機械の感触というものを忘れていった。
転生して来た先……ヘンリエッタはまさしく男の肉欲を満たす世界だった。
美しい、愛らしい、賛辞の言葉が足りない程の大勢の女性達が俺の体を求める。
だが、既にお手付きの者ばかりで、それだけは萎えた。
まあ、こんな世界だ。
僕以外の転生者も五万といて、すでにそいつらが食っちまった女ばかりなんだろう。
だが……そんな中で見つけたこの子は、ちょっとした掘り出し物だった。
サキュバスのくせに生娘……。
性の知識はあるくせに、他のサキュバスと比べて行為がへたくそという理由で余った美少女。
おどおどとした性格が庇護欲と支配欲を同時に刺激する……そんな女だった。
最初は自分だけのハーレムを作って、とっかえひっかえ女を侍らせるつもりだったが……気が変わった。
こんなビッチとヤリチンしかいない世界で、彼女とだけ愛を紡ぐのも悪くないだろう。
そうしたら、陰謀や裏切りとも無縁でいられる。
使命感を胸に、救えたはずの命なんてものを視界の端に見ながら……狭苦しい真っ白な部屋の中で背中を丸めずに済む。
今世は……それだけができればいいと思っていた。
そして俺は、今夜も彼女を腕に抱き……機械だなんだとアホな世界を選択した男達達を下に見るのだ。
巨大ロボット?
変形して合体?
ロストテクノロジーで世界を守る?
アホどもめ。
今思えば、取得推奨スキルが技術系統というのも僕を馬鹿にしていた。
生前死ぬ思いで自分のモノにしてきた技術を、どうして今更神や女神から与えられなければならないのか。
バカにしやがって。バカにしやがって。バカにしやがって。
「あ、あの……ご主人様? お気に召しませんでしたか? 急に怖い顔をなさって……」
「いや、すまない……なんでもないんだ」
忘れよう……。
今はこの世界で、彼女を抱いて……ただただ穏やかに暮らすんだ。
「けほっ……」
「?」
僕は、おどおどしたサキュバスと共にそんな能天気な夢を見ていた。
神や女神に、今更教えを乞おうとは思わない。
ただ……あの時、ほんの少しでも生前に未練を抱いていたならばとは、思うこともある。
だがしかし、女の抱くつもりで取った『眠らずにすむ体』がこんなところで役に立つとは思わなかった。
今、ヘンリエッタには謎の病が流行している。
サキュバスだけがかかる奇病だ。
人間や転生者達には影響がないことから性病の類ではないというのはわかった。
おそらく呪いに近いものだが……この世界の魔法では治療できないらしい。
そして、人々が辿り着いたのは大昔に失われたらしいロストテクノロジーだった。
そうだ。
僕は今、サキュバスの住む剣と魔法の世界で、失われた科学、そして医療技術の研究をしている。
この世界に転生して来た女目当てのクソ共や現地の人間は役に立たない。
今僕を支えているのは生前に会得した技術知識。
そして、女を抱くために会得したこの体と……彼女と交わした『必ず助ける』というちいさな約束だけだ。
しかし、寝ずに済むというのがこんなに便利だとは思わなかった。
「ごめんね……ごしゅじんさま……」
悲し気な目をする彼女の隣で、僕は今日も背中を丸める。
「僕がやりたくて……うん、そうだな。やるべくしてやっていることだ。気にするな。それに……もう『ご主人様』はやめてくれ。君には……名前で呼んでほしいんだ」
にこりと弱々しく笑い、小さく動く彼女の唇に……今夜も耳を傾ける。
ああ……また、夜が明けるな。
――――――――――
科学技術に長けた転生者
転生時スキル
〇『眠らずにすむ体』SS(眠らずにすむ体。眠らずとも体に悪影響はなく、望めば眠ることも可能。スリープ等の眠りに関する呪い、祈り、魔法を無効化する)
〇体力増強S+
〇性者の御手A+(性交時、相手に与える快楽が大幅に増幅される)
これから転生する方へ一言
女を抱きたいなら他所へ行け。
ご案内!異世界レビュー!シリアリスさん♪ 奈名瀬 @nanase-tomoya
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