第4話 リベンジ! その3
サポート:
スキルとは違い、攻撃的な効果を及ぼすものは少なく、基本的にはアタッカーを補助するもの。
一度発動するとバトル中二度と使えなく、イメージ的にはアイテムに近い。
攻撃を一度無効化する『プロテクター』、ライフを確率で1だけ残す『ガッツ』、弱点タイプのダメージを若干軽減する『ウィークガード』などが人気。
◆◆◆
「では、お互いよろしいですね?!……レディファイト!!」
実況の声で、ついにリベンジの火蓋が切って落とされる。
「ワアアアアア!!!」
すごい歓声だ。耳が痛いぐらいだ。
新宿のフィールドも広さも規模も池袋とだいたい同じぐらいだが、今日は満員だ。
100人以上は集まっているだろうか。
こんな衆人環視の中で何かをするのは初めてだ。
冷静なつもりだが、頭の芯がボーッとして手が震える。脇汗も凄い。
このままでは、いつも通りのプレイが出来ないんじゃないか?
それが、一番の不安だ。
目の前に油断なく構えるのは、三人ものグランドマスター。
ジェイド。オーブ。コパール。
いずれも、百戦錬磨の強敵だ。
その立ち姿だけで気後れしてしまいそうな圧を感じる。
「おっさん、今日はありがとうな」
後ろから、古城さんの声がかかる。
「私、なんか嬉しくて。富江さんとおっさんが私のためにここまでしてくれて」
その言葉に、一気に脳が引き締まる感覚を覚える。
そうだ、絶対勝つんだ。
勝って、古城さんをグランドマスターにまた引き上げる。
それに、どれほどの意味があるのかは分からない。
けど、無駄だっていい。
───時間は、ちょうど丸一日前に遡る。
「じゃあ、整理しましょう」
リベンジに指定されたのは明日の午後13時。
俺たちは古城さんが今住んでいる、古城さんの祖父の道場に集まり、作戦会議をしていた。
「今更解説するまでもないですけど、『チーム』バトルは主に3つの役割に分けられます」
3つの役割。
つまり、メイン火力、タンク、崩し。
メイン火力の代表は、古城さんやジェイド、コパールみたいな物理アタッカー。
運動神経が良く、素早くフィールドを駆け回って、持ち前のスピードと攻撃よりに設定されたステータスとスキルで一気にライフを削る。元スポーツ勢が多い。
他にも、鈴木みたいな特殊アタッカーもいる。特殊攻撃は出すまでに時間がかかるものの、基本的に物理アタッカーの二倍以上のダメージを叩き出す。
特殊アタッカーは、いかにしてスキルを遮られることなく自分のスキルを発動するかが勝負の分かれ目だ。
次に、タンク。元々はMMO RPGの用語で、盾役とか受け役とか言うとイメージしやすい。
主に物理アタッカーの攻撃を耐えられるようステータスやサポートを調整し、特殊アタッカーのスキルを発動する時間を稼いだり、耐えてその隙にステータスアップのスキルを使ったりしてチームに貢献する。
代表は、オーブ。
最後は、崩し。
基本的にこのゲームは、物理アタッカーは耐久型の防御を一撃で突破出来ないように調整されているので、それでは耐久型が強くなりすぎてしまう。
なので、耐久型のサポートを破壊するスキルを使ったり、ピンポイントで弱点を突けるよう特化して耐久型を機能停止させるのがこれの役目だ。
「ジュエリーズのやつらは物理アタッカー、物理アタッカー、タンクの三人。王道ど真ん中ってところか」
「そう、王道。つまりは、一番強い構成ってこと」
古城さんと会ったのは久々だが、変わりなさそうで安心した。
「で、どうするんだ? ウチはタンクがいないから役割が中途半端な俺がやるか? けど悪いけど耐久よりに育成してるアタッカーないから明日までにはとても……」
鈴木はニヤリと笑う。
「相手は、どうせウチは亜姫ちゃんのワンマンチームだと思ってる。所詮、白銀と銀の素人集団だってね。そこが──狙い目よ」
「んんん……っ!」
身体をのけ反らせて伸びをする。作戦会議を何度も繰り返したせいで、もう外は真っ暗だ。
「そろそろ帰らないと……」
古城さんの方を見る。
「ヤァーッ!」ゲームの方は何週間も触れていないみたいだけど、日課だというトレーニングをしている。
あの動きならきっと問題ないだろう。
「外の空気でも吸いに行くかな……」
道場を出て縁側を歩く。
「七屋敷くん……だったかな?」
後ろから声がかかり振り返ると、そこにいたのは古城さんの祖父。古城義一さんだ。
「あっ、すみません遅くまで。もうお暇するつもりなので……」
「いや、いいんだ。今回はウチのバカ息子が迷惑をかけたみたいで……」
義一さんは手を前に出し、恐縮した様子で言う。
バカ息子。古城さんの父親のことだ。
義一さんの髪はまだ黒々とし若々しく、筋肉質な身体で顔もいかつい。だが、その声音は優しく誠実そうな人柄が伝わってくる。
「厳しくしつけすぎたのか、どうにも身持ちを崩してからはダメでね……亜姫を助けてくれて、ありがとう」
義一さんは。深々とお辞儀をする。
「まさか、あのバカ息子が暴力までしているとは。本当にありがとう」
「いや、そんな。頭を上げてください」
こんなことは初めてなので恐縮してしまう。
「初対面の君にこんなことを頼むのは心苦しいのだが……亜姫はどうも友人を作るのも心に壁を隔てて接してしまうところがある。どうかこれからも、亜姫をよくしてやってくれないだろうか」
◆◆◆
ワアアアアア!!
歓声が遠雷のように聞こえる。
「さぁ、やって参りました新宿と池袋の因縁の対決! 実況はネットニュース、『NTWSC.com』がお送りします!」
俺たちの動画は一週間で10万再生され、大きな話題を呼んだ。それを嗅ぎつけてネットニュースの大手サイトが動画配信したいと言ってきたらしい。
まさかここまでのことになるなんて……
「ア、アワアワアワ……10万再生……」
そんなことは初めてらしく、ツインデビルズのやつらが泡を吹いていた。それに伴いチャンネル登録者も倍増したらしい。良かったじゃないか。
「おおおおお!」
コパールがまず率先して突っ込んでくる。コパールの『アタッカー』も、普段の古城さんと同じく三日月ブレード二刀流!
「ヤァーッ!」
それを古城さんが剣で受ける。PARRRRY!
「ヘへッ、今日は二刀流じゃないんですかぁ。今日こそ亜姫さんをボコボコにして、ナンバーワン三日月使いは私って証明しようと思ったのに」
鍔迫り合いとなったままコパールは、ほとんど吐息がかかる距離まで顔を近づける。
今日は試合中の音声チャットONの規定なので近づく意味はあまりない。威嚇だろう。
「悪いね、私もナンバーワンって呼ばれるなら嬉しいけど、今日はそれよりも勝ちが欲しくて……ねっ!」
古城さんは力任せに押し返す!
「ヘヘッ」
コパールは、離れ際に古城さんの足を踏む。『アタッカー』部分以外での攻撃は反則だが、あのタイミングはわざとじゃないと言われればそれまでだ。
「ッ!」
古城さんは顔をしかめる。
普段であれば、このような汚い手を使われれば冷静さを失うところだが、今日はそうではない。
「ヤァーッ!」
裂帛の気合! 上段に構えた剣を渾身の力で振り下ろす!踏み込んではまた振り下ろす!振り下ろす!
「ちょっ……待っ……」
コパールも上段に構え何とかそれを受け続けるが、押されて少しづつ後退する。
「ヤバ……」
「フゥーハハハハハ!」
それをジェイドの散弾が邪魔する!
「ヤァーッ!」古城さんはすごい反射神経で、それをバク転回避!
相変わらずものすごい運動神経だ。
「古城さん!」
散弾を乱射しながら古城さんへ向けて前進するジェイドの前に、俺が割って入る。
レバーをタイミングよく前に倒し、フラッシュガードで散弾を無効化する!
「フゥン!」
ジェイドは鼻息を荒く吐き、前進を止める。これではこの前の構図と同じだ。
ヴィヴィヴィヴィヴィ……。
背後では、鈴木がチャージレーザーの準備段階に入った。
「ワンパターンなやつらだな」
ジェイドは右手の棒をくるくると回しながら言う。
「どうせ、貴様らが時間を稼いでいる間に、その後ろの特殊アタッカーが大技を決めて逆転するつもりだろ? そんな素人戦法で、俺様たちに勝つなどと大言壮語を吐くとは、ネット中に恥をさらすがいいわ!」
ジェイドとコパールが同時に走りくる!
「発動!」オーブは抜け目なくスキルを発動、チームの攻撃力を底上げする!
一撃でも食らえばライフはゼロになり、負けは必至だ!
───そう、ここまでは作戦通り。
「発動!」古城さんは、虎の子のスキルを発動する!
「なっ!?」
コパールが驚愕する。古城さんが発動したのは『フオートレス・シェル』!
物理防御力を二段階アップさせる、防御スキルだ!
「古城亜姫が───タンク役だと!?」
完全に意表をついた。古城さんほどのスピードのあるプレイヤーを、まさかタンク役に使うなんて思ってもいないだろう。
『アルティメイトファイターズ』は、ゲームでありスポーツであり、何より人対人の勝負だ。
そこに予断や思い込みは、必ず生まれる!
KRAAAAAAAASH!!!
ジェイドとコパールのスキルを古城さんは受けるが、ライフを三割ほど残し、無事!
「発動!」その瞬間、鈴木のチャージレーザーが、ジュエリーズの三人へ直撃した!
アルティメイトファイターズ〜仮想現実でゲームとスポーツが融合した競技でプロゲーマーを目指す〜 くねくね @kunekune_hn
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