第4話 リベンジ! その2
プレイヤーネーム:鮮血†堕天使(本名・鈴木富江)
メインで使用してるセット
タイプ:光(シャイン)/風(ウィンド)
アタッカー:キャリバーウィング
スキルセット:ウィンドスラッシュ、チャージレーザー、スタンフラッシュ、紅蓮
サポート:ウィークタイプガード
オートスキル:ブレッシング
備考:ランク マスター(白銀等級)
◆◆◆
「オーブさんこの前はなんか、ジェイドさんと面白いことしたらしいじゃないですかぁ」
ここは新宿西口を出て少し歩いた先にある大型アミューズメントパーク。その二階は『アルティメイトファイターズ』のフィールドとなっている。
「私も連れて行ってくださいよぉ」
そこでトレーニングをしながら対戦が起きるのを待っているのは、ここを拠点にするチーム「ジュエリーズ」に所属するグランドマスター、プレイヤーネームはコパール。
「フゥーハハハハ! 惰弱!」
メインフィールドでは、ジュエリーズのリーダー、ジェイドさんが一般プレイヤーをボコボコにしている。
「この前の動画見ましたよ。相変わらず亜姫さんはカッカしやすくてダメですねぇ」
コパールは女子大生であり、同じくアクションの物理アタッカーの古城亜姫を強烈にライバル視している。
顔立ちも悪くはない方で、古城亜姫がいなければもっと話題のプロになっていたかもしれない。
まぁそんなコンプレックはさておき、古城亜姫がメンタル面で少々脆いところはオーブも同意するところだ。
オーブは考える。彼女がもう少し深慮があれば、このチームに迎え入れてもいいのにと。
しかし、そんなことはジェイドさんもコパールも許しはしないだろう。
「オーブさん、対戦しましょうよ。たまには稽古つけてくださいよぉ………ん?」
対戦が起きずトレーニングモードが規定の時間を過ぎたため手持ち無沙汰になったコパールは、防具を付けたままスマホをいじりながらオーブを誘う。だが、その目が何かに吸い寄せられる。
「オーブさん、これ見てくださいよぉ!」
コパールの目は爛々と輝いている。
オーブがスマホの画面を見るとそこには「池袋vs新宿!リベンジマッチ求む!」の文字。
「フゥーハハハハ! 面白いではないか!」
いつの間にか背後に立っていたジェイドさんは、それを見て後頭部が地面に向くぐらいのけぞりながら高笑いした。
◆◆◆
「で、こんな感じでどっすかぁ?」
ツインデビルズの片割れ、スタンディングアバタータイプのプレイヤーで、プレイヤーネームグリムスが編集した動画を指差す。
「さすが、こういうのは慣れてないから助かる」
「へへへ、なんかワクワクしますねぇ」
彼らの動画チャンネルは毎回再生数が5000回ほどらしい。
それを利用して、俺たちのリベンジを大きく話題にするため、彼らのチャンネルを使い宣戦布告───というには大袈裟だが、とにかくリベンジを宣言することにした。
「ジェイドのやつ、ぶっ潰してやるぜ!」
棒読みの俺のシーンは何回見ても脇汗がヤバくなる。再生数が猛烈な勢いで増え、『いいね!』ももの凄い勢いで増えていく。
これだけの人が俺のこの棒読みを見ているかと思うと、羞恥心で目から火が出そうだ。
「上手くいきそうですね」
後ろでは鈴木がいつものゴスロリでSNSをチェックしている。
「ただ戦って勝っただけじゃ世間のプロチームの悪印象は払拭できませんからね。亜姫ちゃんの新しい所属先を見つけるには、注目されてその上で勝たないと」
鈴木の言う通りなんだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
だが、これも古城さんのためだ。我慢しないと。
「亜姫ちゃんはどしたんす?」
ツインデビルズのアクションアタッカーの方、トライストが聞く。
「とりあえず、お爺ちゃんの道場に行ってもらった」
あの後のことを思い出す。俺たちは渋る古城さんをなんとか説得し、彼女のお爺ちゃんの電話番号を聞き出し、どうしたらいいのか相談をした。
お爺ちゃんはその日にあったことを聞くと憤慨し、古城さんを匿ってくれることになった。
実際に会ったお爺ちゃんは厳格そうな人で、古城さんとの会話からも安心できそうな人だと判断した。
そして、同意をもらい警察に通報した。
暴力は今回が初めてのことだったらしく警察は民事不介入もあり今回は大きな問題にならなそうなことが残念だが、古城さんはしばらくは安心だろう。
「俺っちにはよく分かんないっすけど、いいんすか?」
グリムスは少し言いづらそうに言葉を選んだが、切り出す。
「……何が?」
「そんな大事な時期に、ゲームなんてやってて」
……グリムスの言うことはもっともだ。
古城さんはまだ高校生。これからが大事な時期だ。
大学進学のためにしなきゃいけないこともたくさんあるだろうし、趣味でやってるやつらとは環境が違う。
だが、俺には分からない。何が正しいかなんて。
けど、古城さんの選んだことを可能な限りサポートしたい。今はそんな気持ちだ。
古城さんは、祖父の世話にだけずっとなるつもりはない。可能な限り早く自立したいと言っていた。
バイトでもなんでもして、少しでも早く祖父のもとから自立したいと。
なら、プロゲーマーは安定した職業とは言えないが、高校生の身で稼ぐには高給なやり方だろう。
もしまた雇ってくれるチームが見つかれば、それが彼女をサポートする手段になるはずだ。
「まぁ俺らも大学行ってないし、エラソーなこと言えませんけどね」
トライストとグリムスが笑う。こいつらも苦労してんのかな。
数ヶ月ゲーセンで顔を合わせるだけで顔なじみではあるが、個人情報を語ったりはしない。
ゲームの中の対戦だけの不思議な関係。
けど、もしかして俺たちは、仲間ってやつなのかもしれない。
自分の顔馴染みのゲーセンが馬鹿にされれば腹が立つし、顔馴染みが困っていれば可能な限り助けたいと思う。
友情とも少し違う、奇妙な関係だ。
「おっ! ジュエリーズのやつらが自分のチャンネルに動画上げてますよ!」
グリムスのタブレットに目を落とす。そこには、俺たちの動画の文字の2倍デカく『我らジュエリーズに逃走なし!リベンジ受けて立つ!』の文字。
俺と鈴木は目を合わす。
「責任重大だな」
「絶対勝たないと」
俺はジュエリーズが指定してきた日の前後3日、どうやって有給を取ろうか考えていた。
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