第2話 錬金術師


ハルクが戻って来たのは、約十分後。

何やら難しそうなことが沢山書いている書類を沢山持っている。その隣には、ハルクと同年代くらいの女性がいた。


「あれ!?リーゼルトのアニキじゃないっすか!!どうしたんです?ギルマスに用事でもありました?」

「いや、普通に換金と依頼探しだが?」

「ん?てか、幼女ロリ!?アニキ、ついに誘拐でも始めたんっすか!?」

「いや、違ぇわ!!」


どうやら、リーゼルトと女性は親しい仲らしい。何故かカウンター越しに殴り合いを始めた二人を興味深そうに観察するシルフィの目をハルクは塞いだ。


「うん、シルフィちゃんは見ないようにねー?教育に悪いから」

「教育に悪い………?」


ハルクはシルフィを抱き上げると、そさくさと冒険者達がいない丸テーブルを見つけ、腰を下ろした。ついでにシルフィも降ろした。


「はい、じゃあ今から必要事項を書いていきます!シルフィちゃんは文字が書けるかな?」

「書けますよ?」


十四歳ならば読み書きが出来るのは当たり前なことだ。しかし、子供扱いをされるのは癪だが、自分の身長とこの町の子供の少なさ故に、仕方ないことだろう。きっと、他の十四歳もこんな感じなのだ。


「じゃあ、まずはここに自分の名前と誕生日、あと職業ジョブを書いてくれるかな?」

「わかりました」


シルフィは羽根ペンを手に取り、必要事項を記入しようとする。しかし、上手く書くことができない。何故ならば、羽根ペンはシルフィの手にはあまりにも大きすぎた。

太さ的にはちょうどいいのだが、持つ部分の長さと羽の部分が大きすぎて重い。故に、両手で支えなければ書きづらいのだ。


(えーと、名前はシルフィ。誕生日は氷の67で、職業は錬金術師アルケミストっと)


四苦八苦し、なんとか記入をし終えてハルクに書類を渡す。


「ん?錬金術師?シルフィちゃん錬金術師なの?」

「え?はい。そうですけど、どうかしました?」

「バリッバリの非戦闘職じゃんか!!大丈夫!?ギルドに入るからには実力テストもあるよ!?」


グワングワンと肩を揺らされ、吐き気がしてくる。てか、頭がクラクラして気持ち悪い。正直そろそろ止めて欲しい。


「おい、ハルク。嬢ちゃんが困ってんだろうが。取り敢えず、肩離してやれや」

「ハッ!ご、ごめんねシルフィちゃん」

「だ、だいじょぶです」


ハルクを止めたのは先程ぶりのリーゼルトだ。彼には先程から助けられてばかりいるので、今度何かお礼をしなければ、とシルフィは密かに決意する。


「といっても、シルフィちゃんの職業、錬金術師なんですよ?それに、今日の審査員は鬼のバルフェールですし……」

「バルフェールがこっちきてんのか?珍しいな!普段は本部から一歩も出ねえのに」

「本部のギルマスにキレられたんですって。実力はあるんだからさっさと外で仕事してこいって」


(え?サラッと流されたけど、今鬼って言った?このギルド鬼雇ってるの?)


シルフィは二人の会話に目を丸くする。その表情はさながら、なんて物騒なギルドなんだ……とでも言いたそうだ。


「あ、そうだ!よければリーゼルトさんも一緒にテスト見ません?リーゼルトさんが入ればさすがに最悪の事態にはならないでしょうし!」

「んあ?別にいいぞ。時間もまだたっぷりあるし」


なんと言うことだろうか。シルフィが何も言わない間に、テストの同行者が増えてしまったではないか。

てか、それでいいのかAランク冒険者よ。もっと仕事あるんじゃないのか。シルフィは心配になった。


 ***


ハルクは目の前を歩いている少女と大男を見つめ、こっそりとため息をついた。


(シルフィちゃんの職業ジョブをあんなに大きな声で公開してしまった……)


自分の失態を思い浮かべ、シルフィに申し訳なく思うと同時に、彼は疑問に思う。

なぜ、シルフィは冒険者登録をしに来たのだろうか、と。

錬金術師アルケミストなら、生産ギルドに登録すれば冒険者の数倍の金が手に入る。なぜ冒険者のような修羅の道を選ぶのか、ハルクには理解が出来なかった。

錬金術師は決して戦闘に向いた職業ではない。

もっと言えば、戦闘に役に立つスキルなどがないため、冒険者としては最もオススメできない職業だ。


しかし、錬金術師は物を作ることに関しては最上級である。錬金術師が作ったアイテムは非常に上質で、レア度も高いため、錬金術師の価値は高い。そして、一国に一人いるかいないかくらいの希少性もある。

もし生産ギルドがシルフィの存在を知れば、絶対に手に入れようとしてくるだろう。


恐らく、いや確実に冒険者ギルドより大切にされる。

最悪の場合、生産ギルドと冒険者ギルドで戦争……いや、もっとスケールを上げれば国同士の戦争も有り得るかもしれない。てか、過去にそんな事例があった気がする。


(やばい。かなりやばいぞコレは…………)


もう一度、チラリと前の二人を見れば、楽しそうにおしゃべりしているではないか。


「リーゼルトさん、それでですね?にい様が……」

「うわ、まじかよ!えげつねえなそいつ」


ちょっと、真面目にギルドマスターに報告することを考えた。もうこれは一スタッフが一人で判断していい問題ではない。

とりあえず、実力テストでシルフィが大怪我をしないようにあの鬼を見張っておかなければならない。

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錬金術師のダンジョン・クエスト 菜々瀬 @nanase_xxx

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