錬金術師のダンジョン・クエスト

菜々瀬

第1話 幼女


ここは、王立冒険者ギルドのアステライト支部。


オレンジ色の照明が暗い室内を照らし、酒を呑む男達や仲が良さそうに依頼を選ぶ女達で賑わっていた。


そんな、初めてみる光景にドキドキしながら冒険者登録の順番を待っている少女がいた。


その少女の歳は、八、九歳ほどだろうか。しかし、冒険者登録が出来るのは十歳以上と法律で決められているため、十歳を越えているのは間違いない。


少女の前にいるのはあと三人。全員体格がいい男で、しかも背中に大剣を背負っていたり、見るからに痛そうなメリケンサックを両手に装備していたり、立派な鎧を装着していたりして、少女は内心自分の場違い感を感じていた。


(ばあ様が言ってた話と違う……私と歳が変わらない子も沢山いるって聞いてたから来たのに……!)


騙された……と、消え入りそうな小さな声で言った少女の呟きは誰にも聞こえていないだろう。


そもそも、アステライトという町は結構な田舎町である。過疎化が進んでいるこの町に子供など、祭りがある数日間くらいしかいないだろう。それも、祭りが終われば都会に帰っていくので、実質子供の数はゼロに等しい。

この町はダンジョンが多く存在するため、都会で冒険者の修行をして一人前になった若者(と言っても三十代後半だ)がダンジョン攻略の作戦を立てる間滞在することが多い。

少女と同じ年頃の子供達は、まずは王都や領都で修行をするだろうから、こんなところにいるはずがない。


少女は、何故こんなことに……!と自分に冒険者ギルドのことを説明した祖母を心の中で恨み、順番を待った。

前のメリケンサックの男の用件がそろそろ終わりそうである。自分では気づかないうちに、結構時間が進んでいた。


「次の方ー。どうぞー」


受付の男性から声をかけられる。

少女は自分の身長よりも高いカウンターに戸惑いながらも背伸びをしなんとか椅子によじ登ろうとするが、どうしても身長が足りない。さて、どうしたものかとカウンターと椅子を交互に見つめる。


こうなったら全力でジャンプをしてみるしかないか、と普通に登るのを諦めかけたときである。

少女の脇の下から手が出てきて、その手は少女を椅子に座らせる。驚いて後ろを振り向くと、これまた少女の背丈の二倍はありそうな大男がいるではないか。


「あんまりにも登りづらそうだったからな」

「ありがとうございます、おじさん」


その大男は傷だらけで、しかも目付きが鋭く、髪が丸太のように前に伸びているという、少女に取っては恐ろしいことこの上ない姿だったが、話してみると凄くいい人である。普通の人は目の前で少女が困っていても見て知らぬ振りをするだろう。人は見かけによらないとはこのことだ。


「初めまして、オレの名前はハルク。お嬢さん、今日はどうしたのかな?」

「冒険者の登録をしに来ました。私の名前はシルフィです」

「あのね、シルフィちゃん。冒険者登録は十歳以上じゃないと出来ないんだよ?お父さんかお母さんに教えてもらわなかったかい?」

「違います、ハルクさん。私は十四歳です」


「「…………十四?」」


まさかの年齢にハルクと先程の大男の声が重なる。

それもそうだろう。シルフィの身長は120センチより少し上くらいだ。とても十四歳には見えない。


「うーん……シルフィちゃん、ステータスの公開は出来るかい?名前とか年齢とかの所だけでいいから」

「ステータス?」


ステータスとはなんぞや?

そう疑問に思っていたのだが、疑問符をつけていてもシステムは反応したらしい。シルフィの前に半透明色のスクリーンが映し出された。


(あ、ホントに十四歳だったんだ……)


ハルクは驚愕した。

しかし、十歳以上なことを確認したからには、きちんと対応しなければいけない。


「では、定型文でいくよ?いいね?__ようこそ!冒険者ギルド、アステライト支部へ!」

「……えっと?よろしくお願いします?」

「はい、よろしくねー。んで、冒険者登録だったかな?ならいくつかやらないといけないことがあるから、ちょっと待っててね?」


書類取ってくるから。と、ハルクはカウンターの奥にあった扉へ入って行った。空き時間が暇だなーと考えていたら、先程の大男が気を使ってくれたのか、話しかけてきた。


「嬢ちゃん、ホントに十四だったんだな。俺まだ七つくらいかと思ってたわ。すまん」

「いえ、よく間違われるのでだいじょぶです。おじさんの名前はなんていうんですか?」

「俺の名前はリーゼルトだ。一応Aランクの冒険者だから、何かあったら頼っていいぞー」

「よろしくお願いします。リーゼントさん」

「・・・・・」


……………リーゼント、いやリーゼルトは何も言わなかった。シルフィはこんなにも小さな少女なのだ。もしかしたら、まだ舌足らずで上手に言えないこともあるのだろう。


大人が間違えれば問答無用で殴っているだろうが、シルフィは少女なのだ。女に手を出すなど男としての恥だし、故郷の母親にも顔向けが出来ない。


決して、シルフィが名前を間違えているのではないと自己完結し、また話しをしながらハルクが戻って来るのを待った。

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