2



男はシートを掴んだまま彼に触れずにまぶたを伏せ、口元に唇を寄せた。


「…酔っ払ってんの?…だる……」

まるで目を開けて起きていたかのような素振りで言われ、直ぐに目蓋を開き距離を離した。

友人は気だるそうに向きを変えて、背を向けた。


男は吃驚した心を落ち着かせるようにシートにもたれかかって、煙草の先に火をつけた。

その間にくだらない思考が、また張り巡らされる。


…もし、彼とそういうことをしたらお互い好きになって、何度かそういうことをして、付き合うのだろうか。

そもそも相手は同性で、長い付き合いの信用ある親友だ。

かえって気まずくなって関係はどうなってしまうかも分からない。


大体、彼には対する恋愛じみた気持ちはないだろうに…自分だけがこれからそんな感情を持ってしまったら何処に行けばいいのだろうか。


「…こわい」


男は遠くへ行くのがこわかった。今でもずっと、こわい。

その先が、未来が恐ろしくて前に進めない。

煙草の先から出る煙は妙に、空虚の揺らぎをうつしていた。





end


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さだまらない 花薗タケ @saythename0218

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