さだまらない

花薗タケ

1



「遠くへいくのが怖い」




それが男の口癖だった。




十三人目の彼女と別れた翌日の夜。男は傷を癒したくて、同級生だった五年ほどの付き合いである親友と思い思いに語って、呑み明かした。




一方が車で来たにも関わらず互いに飲酒したため、明け方になるまで車内で寝ていようと決めてから一時間経った頃。


友人はすっかり眠っていて、男は動かない外の景色をずっと見ていて、眠れずにいた。




ふと体制を変えたくて向きを変えると、友人のあどけない寝顔と向かい合わせになった。


彼とは長い仲で、お互い気の合う良好な縁だ。


何もそんな気はない。何も……。




男の頭の中は、ほどよくアルコールが微睡まどろんでいた。


…彼ならば、自分の事を分かってくれるだろうか。


いいや、考えるのはやめよう。




男は煙草を吸おうと箱をポケットから取り出すが、手から滑り落ち、友人の足元に転がっていった。


溜め息をつきながらも、落ちた煙草を拾って顔をあげようとしたちょうどその時だった。




─キス、しちゃおうかな。


そんな思考がぎる距離だった。

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