Chapter 41 :クロス・ファンタジー実況 リフォーム相談編



 柊さん達と話し合った結果、広い一軒家を購入して内装を全面的にリフォームすることになった。


 ポーションや委託品を陳列し販売する店頭スペースと休憩室やポーション作成の為の従業員が使うスタッフスペース。


 柊さんには委託品販売コーナーの装飾にもこだわりたいし、今まで露店にはなかった委託販売品の在庫置き場をスタッフスペースの一部に設けてほしいと言われた。


 確かに露店のカウンタースペースは狭かったし、俺がアイテムボックス内に収納しておける品数にも限りがあった。


 俺が再入荷依頼をする度に暇を見つけては商品を置きにきてくれてはいたのだが、柊さんの仕入れてくる商品はどれも売れ行きが良かった。


 結果的にどうなっていたかというと、今までは冒険するにしても俺の露店がある街を中心に範囲が狭まっていたらしい。


 俺のアイテムボックスをいつまでも圧迫させてしまうのも悪いので、在庫部屋が作れるなら是非にというのが柊さんの要望だった。


 俺としても特に自分が寝泊まりすることは考えてないので一応仮眠室さえ準備できれば十分だ。


 買い溜めするにしても一番かさばるジュースはそこまで日持ちしないので、薬液の大瓶各種と採取で得られた素材くらいしか在庫としては置いておけない。


 ポーション瓶も数こそ仕入れるが重ねられるので、売る時よりずいぶんと少ない収納スペースがあれば事足りるので異存はない。


 ということで裏スペースの半分は柊さん達の在庫用の倉庫にするためのリフォームだ。


 費用面でも各々の要望を取り入れた形だと丁度金額的に偏りもなかったので、最初は折半にしようという話だった。


「それでですね、ちょっとご相談があるんですが…」


 が、そこで建築業者のおっさんから提案を持ちかけられた。


 今は仕事の依頼が多くて人手が足りていないので、建材の一部を納品してくれるのならば建築費用をその分割引してくれるという話だった。


 普通に商人プレイをしていたら建材に使うアイテムを時価検索にかけて安く仕入れて納品し、リフォーム費用を安くできるクエストだったのだろう。


 が、俺達…いや、柊さんには心強い戦力が味方についていた。


 強面の海賊団のみなさんだ。


 部下のトレーニングに丁度いいからと、船長さんは相変わらず仏頂面のままだったが快く引き受けてくれた。


「じゃあ柊さんは元の金額の2割を負担してください。

 残りは僕が払いますので」


「いえいえ!

 海の上での生活は体がなまるらしいので、トレーニングできて丁度いいんです。

 それに販売コーナーと委託販売スペースで結構な面積を使わせてもらうんですから、テナント料の一部として受け取ってください」


「いやいや、そんなわけにはいきません。

 柊さんにはいつもお世話になっているので」


「いえいえ、それを言ったらこちらの方こそいつも在庫管理やら接客やらでお手間をとらせてしまってますし」


 しばらく“いやいや”と“いえいえ”の応酬を繰り返していたのだが、そこに太腿もかくやという太い腕が割り込んできた。


「カクタスの兄ちゃんよぉ、折半でっていう柊のお願いを聞けないっていうのか?」


 その凶器みたいな二の腕、怖いです!


 お願いだから引っ込めて!



 言っていることは違法でもなんでもないのだが、如何せんその鍛え上げられた肉体と泣く子も黙りそうな低い声音で詰め寄られたら未だに喉がひゅって変な風にひきつる。


「い、いえっ、そそそそういうわけでは…!」


「じゃあ折半でいいよな?」


「は、はひッ!」


 俺がコクコクと必死に頭を上下させると満足したのか、船長は背後に控えていた数人の団員たちに向かって野太い声を響かせた。


「っていうことだ!

 お前ら、今から言うもの全部、大陸中を走り回ってでもかき集めて来い!

 数さえ揃えりゃいいってわけじゃねーぞ!

 店の改装に使うんだ、最高品質以外はゴミ屑だと思え!」


「イエッサー!」


 ビリビリと部屋の壁を揺るがすような怒声が響くと、それに負けないくらいの音量でビシッとかかとを揃えた船員達から返事が返ってくる。


 その強面や戦いの傷跡が見えなければ海軍かと思うような統率の取れた動きだった。


 俺の知らない、クロス・ファンタジーの一面のようだ。


 船員がNPCだけだというならまだ納得もできるのだが、少なくとも今この場に並んでいるのは全てプレイヤーだ。


 遊びでプレイしているはずなのに、傍から見たらとてもそうとは思えない。


 それとも俺がカクタスを演じているように、彼からもまた海賊ごっこを楽しんでいるのだろうか?


 しかし、それにしては船長を見つめる眼差しが熱い。


 幾度も海を渡り、危険なダンジョンに突入して苦楽を共にしたことでゲーム以上の絆が芽生えたのだろうか?


 わからない。


 わからないが、あえて尋ねてみるのも怖いのでそっとしておこう。


 船長さんが業者のおっちゃんに渡された建材リストを読み上げるのを聞きながら、俺はテーブルの上に視線を戻した。


 テーブルの上にはリフォームが完了した時の内装をイメージしやすいよう用意された立体映像化した内装の模型が浮かんでいる。


 ゲームなのでおそらくそのままデータをコピーするような形になるのだろう。


 建材のレアリティがどこまで影響するのかはわからないが、あえて今口を挟むほど俺は無謀ではない。


 俺は完成予想映像を眺めながらポンタコーナーをどうしようかを考え始めたのだった。





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