第13話生活

結婚してから、一年立った。

 俺達の生活は、結婚してからもあまり変化はない。いやある。さなえちゃんのお腹に新しい生命が生まれた。

 さなえちゃんは、すごく喜んだ。俺ももちろん喜んだ。

 赤ちゃんが産まれて大きくなっても、ずっと生きるんだと決意している。


 店は、お互いが負担にならないように気を付けながら営んでいる。ときどき、隼咲が店の手伝いをしてくれる。隼咲は、過保護だ。

 自分が言うのも怒られるかも知れないが、いつも自分以外の人を気遣っている。

 隼咲が、店の手伝いをしてくれるのは、俺の身体のことやさなえちゃんのお腹の子供のことで、心配しているからだ。


「隼咲、大学とバイトが大変って聞いたけど、店の手伝いに来て大丈夫?」


「大丈夫だ。両方とも休みの時に、手伝いに来ているからな」


「両方とも休みだからって、手伝いに来なくても良いのに。せっかくの休みなら、無理せずに休めよ」


「お前に、無理せずに休めって、言われたくないな。いくら、体調を気遣って店をやっても、身体に負担がかかる。それに、さなえのお腹に子供がいるんだ。お前らは、すぐに無理をするから、俺が一緒にいないと安心できないんだ」


「隼兄って、本当に過保護だよね。隼兄の方こそ、私達を心配しているよりも、自分の身体を心配してよ。それに、妊娠しても少しは動かなくないと、身体に悪いってお医者さんに言われたの」


「そうは、言っても。俺は心配なんだ」


 ガチャっと、店と自宅に通じるドアが開いた。そして、じいちゃん達が出てきた。


「店の奥まで話が聞こえたんじゃ。二人とも、私達に気をつかなくていいんじゃ」


「遼、少しの間、店を閉じてもいいんだよ。働きすぎは、良くないからね。隼咲君の言う通り、さなえちゃんもお腹に子供がいるんだから。無理はしてはいけないよ」


「じいちゃん、ばあちゃん・・・ 」


「遼さん、おじいさんとおばあさんの言葉に甘えましょ?」


「そうだね」


「隼咲君も、少しの間でも休みなさい。二人の心配をして、ゆっくり休めてないんじゃないのかい?」


「分かりました。ありがとうございます」


「早速、明日から休もうかな」


「そうだね。久しぶりに実家に帰ってみる?」


「遼、そうしろ!久しぶりに、俺の部屋でゲームしようぜ!」


「じゃあ、二人の実家に帰るよ」


「私達の実家でもあり、遼さんの実家でもあるよ」


「そうだぞ!俺は、明日は夜に、帰ってくるからな」


「分かった!楽しみにしてる」


 そして、翌日実家に帰った。

 お義父さんとお義母さんは変わらず元気で、そして過保護だ。さすが、隼咲の両親。


 家族五人でご飯を食べた。前と同じで、さなえちゃんがお義母さんと料理を作り、仕事から帰ってきた隼咲とゲームをした。


 お義父さんは、俺に気遣ってなのか分からないが、お酒を飲まなかった。


 元々、お酒が好きっていうのは、聞いていた。お義父さん曰く、「禁酒をしている」らしい。お義母さんと隼咲も酒を飲んでいない。


 お義父さんは、「炭酸飲料で充分だ。そろそろ年だから、健康を考えないとな」と真面目な顔で言っていた。


 さなえちゃんが、お風呂に入っているときに、お義父さんとお義母さんと隼咲と話をした。


「この間、病院で検査をしました。今のところ身体に異常はなく、病気の発見はされてない。でも、身体は弱っている。永くは、生きられない可能性があると言われました」


「そうか…」


 と、お義父さんが言った。


「だけど、先生が『遼君が、今、生きているのが奇跡だか、このまま奇跡が続く訳じゃない。でも、遼君が、彼女に出会ったことがきっかけで、生きるが生まれて力になったたんだ。そして、奇跡が起こった。で、今生きている。今度は、彼女に子供が産まれたら奇跡が起こるとは限らない』と言っていました。俺は、またまだ生きたいです。さなえちゃんと自分達の子供を、幸せにしたいです」


「そうだな。遼君に、娘を嫁に出したんだ。お腹にいる子供も、産まれてからもしあわせにして欲しい。親になったら、子供に誇れる父親にならないといけない。それは、分かっているね」


「はい、分かっています。子供に、誇れる父親になります」


「いい返事だ」


「生きることを諦めずに、不安なことがあれば私達に遠慮せずに、必ず話すこと。自分の中に不安なことや疲れをためていたら身体に悪いからね」


「はい、ありがとうございます」


「遼、このことについて、さなは、知っているのか?」


「うん。知っているから大丈夫」


「なら、安心だ。俺達に話すのは、これ以外にもあるだろう?」


「さすがだな、隼咲。そうだ」


「私達に、話したいのは、どんなことかな」


「それは、最近、店にですのが少し出るのが辛いと、思うことがありました。もし、俺達の子供が産まれて、子供が小さいときに俺が死んだら。父親の存在が、分からないまま成長していくと思うんです。俺のように、小さいときにお母さんが亡くなって、母親の存在を知らないままだったら寂しいかったです。周りには、お母さんがいるのに、自分にはいない。俺の場合は、父親もいなかったので、余計にそう思うんです。だから、俺が死んだあと、子供に自分の父親はこんな人だって聞かせて欲しいです。そして、俺の変わりに、さなえちゃんと子供に寄り添って欲しいです」


「遼、何当たり前のことを言ってるんだ!言われなくたって、俺達家族はするぞ!」


「そうだよ。遼君が、頑張って生きた証を消しはしないよ」


「遼君、無理はせずに、今の自分に合うように、生きていけばいいのよ」


「ありがとうございます。あと、もうひとつお願いがあります」


「なんだ?」


「それは…」

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