第67話 今日は色々な瑞菜様を堪能できた。

<西宮月(にしみや つき)視点>


 月(ボク)達は最終決戦場、佐々木家に訪問していた。兄貴こと、西宮陽(にしみや よう)と佐々木瑞菜(ささき みずな)様、男バージョンの宮本京(みやもと けい)社長が瑞菜様のご両親の前に座っている。月(ボク)と八重橋元気(やえばし げんき)、森崎弥生(もりさき やよい)お姉ちゃんは少し離れた所に腰かけていた。


 んぐぐぐ!どうしたら、こんな平凡な両親から瑞菜様のような女神様が生まれるのじゃ。これが本当の都市伝説!トイレットペーパー妖怪とはレベルが違う。瑞菜様のお父さんが、値踏(ねぶ)みでもするかのように、兄貴を頭のてっぺんから足元までギロリと見渡した。


「キミが話題の西宮陽くんだね」


 うぉっ。声のトーンに毒がある。そりゃーまあ、そうでしょ。一人娘を奪われる父親としては、恋人を失う気分と同じなのじゃ。うほ。予定通りの修羅場だ!どうする兄貴。最高の見ものなのね。


「はい。挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」


 ここは下手(したて)に出て謝るのが基本か。兄貴のくせに心得ている。さては兄貴、隠れてコソコソ練習したんちゃうか。


「勝手に婚約発表をする前に、一言連絡を入れるのが世間の常識と思わんのかね。若いから許されると言うものでもないだろう」


「お父さん。そんな言い方は無いと思います」


 おー、瑞菜様。クールビューティー健在!兄貴とは気迫が違う。怯(ひる)むことのないキリリとした瞳が無敵すぎる。


「瑞菜は黙ってろ!私は西宮くんと話をしているんだ」


 おーっと。さすが無敵美少女のお父さん!貫禄(かんろく)が違うのね。


「・・・」


 瑞菜様が言葉に詰まった。こっわっ!お父さん、テンションマックス、怒りはゼウス級なのね。月(ボク)の親父(おやじ)、西宮新なんか元気を紹介したらへらへらしてたのに。なんか月(ボク)、親父に愛されていないのかしら。複雑な気分だぞ。


「言い訳はしません。ただ、これだけは直接伝えたくて、ここに来ました。僕は佐々木瑞菜さんを愛しています。この気持ちは一生涯変わりません。そのことをお約束します。ですから、瑞菜さんとの婚約を認めてください」


 兄貴がテーブルに頭を付けている。あのヘタレだった兄貴が何だかかっこいい。くー、兄貴が練習している姿を見たかったぞ!ぬおっ。瑞菜様の瞳がうるうるなのね。抱きしめたい。ぐふふ。


「どうです。こんなもので。宮本社長」


「・・・?」


 なになに?どゆこと。『カマレズ』貴様!何か仕組んだのか。


「よろしいのではないでしょうか。西宮陽くんの覚悟は私もしっかり聞きました」


「・・・」


 兄貴、茫然自失(ぼうぜんじしつ)。って当たり前か。


「すまなかった。宮本社長が若者なんて気まぐれだからちゃんと覚悟を聞き出せと言うもんでな。いやはやなんとも、私のキャラクターではないのだが。しかし、キミの気持ちが聴けて良かった。ふー、慣れないことをしたものだから冷や汗をかいた」


「お父さんも宮本社長もひど過ぎます」


「瑞菜。悪かった。でもな、瑞菜も彼の覚悟が聴けて良かったんじゃないか」


 瑞菜様、まんざらでもない様子。男の子って大変なのね。


「ところで宮本社長。約束通り私たちもこれからは佐々木瑞菜の親であることを隠さなくてもいいんですね」


「ええ。彼女のことは彼女にまかせることにしました。西宮陽くんのサポートがあれば、国民的無敵美少女アイドルの人気は、若者の代弁者として今まで以上に高まるでしょう。もう、ミステリアスである必要はなくなりました」


「おい、ママ。聞いたか。会社の仲間が腰を抜かすぞ」


「ありがとうございます、宮本社長。これからは何時でも会いにいけるのですね」


 瑞菜様のご両親が手を取り合って喜んでいる。妖怪『カマレズ』呪縛が解けたのね。


「それにしても瑞菜のお友達がこんなにたくさん。遠いのに、皆さんよく来てくれた。田舎料理ですまんが奥の座敷にお祝いの料理が準備してある。のんびりしていってくれ。おっと、そうだった。西宮陽くん!ところで孫の顔はいつ見られるんだ。なあ、ママ。私たちもお爺ちゃんとお婆ちゃんだな」


「そうですね。うふふ」


 げっ!んじゃ、月(ボク)、中三にして『おばさん』じゃんかよー。『おばさん』ってなんて恐ろしい響きだ。せめてお姉ちゃんがいい!


「お父さん、お母さん。何、言ってるの!私たち、そんなことしてません」


 良かった。ってか、兄貴!やっぱりヘタレだったのね。月(ボク)のお泊まりの努力は無駄だったのね。二人っきりで何してたんじゃい。まっ、瑞菜様のほほを真っ赤に染めた恥ずかしそうな顔が見られたので許すとするか。いつもクールな女の子が恥ずかしがっている姿って、ぐっとくるのだ。


「なんだ。そうなのか。東京じゃ当たり前と思っていたが・・・」


「残念だわ。せっかく孫のために洋服やおもちゃを買ったのにね」


「お父さんもお母さんも気が早すぎます」


 今度はふくれる瑞菜様!かわいいー。今日は色々な瑞菜様を堪能(たんのう)できた。最高だ。あれ、忘れてた。兄貴!良かったなぁ。弥生お姉ちゃんも元気も活躍の場が一つも無かったのが残念なのね。

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