第33話 今晩、僕はどうなってしまうのだろう

<西宮陽(にしみや よう)視点>


 今日は土曜日だ。佐々木瑞菜(ささき みずな)さんは、珍しく今日と明日の二日間、お休み。幼なじみの森崎弥生(もりさき やよい)さんも遊びに来て、妹の西宮月(にしみや つき)を加えて、四人で西宮家の大掃除をすることになった。弥生(やよい)さんは今晩、泊まっていくらしい。


 四人でどこかへ遊びに行くことも考えたが、国民的無敵美少女アイドルと一緒では目立ちすぎる。せっかくのお休みがノンビリできない。っと言うことで、この二日間、家にこもってマッタリすることになった。二日分の食材もタップリと買ってある。料理の時間が楽しみだ。


 6月に入り雨続きだったが、今日は好天に恵まれた。青い空がまぶしい。庭木の深緑の匂いも清々しい。洗濯日和だ。僕と瑞菜さんは妹の月(つき)の分を含めた三人分の洗濯物を干していた。


「ワイシャツやブラウスは広げてバシッって一振りしてからハンガーにかけて、形を整える。それからシワになっているところをポンポンと叩くとシワが伸びて、後でアイロンがけが楽になるんだ」


 僕は自分のワイシャツを叩きながら瑞菜さんに説明した。


「陽(よう)くんは何でも知っているのね」


 瑞菜さんは僕の横で真似をしてブラウスをポンポンしている。国民的無敵美少女アイドルが自分の家の庭で洗濯物を干している。信じられますか?おそらく誰も見たことが無い、アイドルらしからぬその姿さえも美しい。日の光を浴びて輝く黒い瞳に見つめられると、つい手が止まってしまう。二人は順番に籠から洗濯物を取り出して干していった。


「・・・?」


 僕が籠の中に手を伸ばしてつまみ上げたものは、小さな白色の三角形の布切れだった。白いリボンがかわいい。


「それ、私の下着・・・」


 いつも、妹の月(つき)の下着を洗濯しているので鈍感になっていた。瑞菜さんのものと分かった瞬間、顔中から湯気が噴き出しそうだ。瑞菜さんの顔も真っ赤だ。


「じぁあ、私も」


 瑞菜さんが籠に手を入れて僕のトランクスを取り出した。三人で暮らしているのだから、布切れ一枚、どうってことないのかもしれないがドキドキが止まらない。それに何故か今まで、瑞菜さんの下着の洗濯物は見たことない。お風呂に入った時に自分で洗っているのだろう。僕の中の冷静な部分がつまらないことを考え始めた。


「ちょっと!お二人さん。何やっているのよ!いやらしいわね」


 森崎弥生さんが何故かメイド服の姿で立っていた。栗色の髪が強い日の光を受けて金色に輝いている。ブルーサファイアの瞳がお似合いだ。竹ぼうきをたずえた姿は魔法少女のようだ。


「瑞菜さん!わざと混ぜたでしょ。それ」


 弥生さんが僕が手に持つ布切れを指さして言った。外は青く澄んだ好天なのに雲行きが怪しい。やばい。


「ふふっ。バレましたか。弥生さんはタイミングが良すぎませんか。もしかしたら見張ってました?」


 瑞菜さんも負けてない。


「陽くんはこっちを干しなさい」


 弥生さんは洗濯籠の中をあさって青いフリルのついた布切れを取り出した。彼女はマッハのスピードで僕の持つ白い布切れを奪い取った。代わりに青い布切れと差し替える。


「・・・?これは、もしかして弥生さんの下着!なんで弥生さんの下着が僕の家の洗濯籠の中に」


「いいでしょ。洗濯日和なんだし」


 意味がわからない。こうなることを知っての行動か!女の子って何を考えているのか本当にわからなくなった。


「弥生さん。このスケスケさ加減は、次期生徒会長を狙う生徒会風紀委員長として如何なものでしょうか」


「普段、他人に見せるものじゃないからいいのよ。でも、陽くんには見せてあげる。今晩の勝負下着。夜になるのが楽しみね」


 青い瞳の美少女が嬉しそに笑った。今晩、僕はどうなってしまうのだろう。

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