第34話 きっと私の目も輝いています

<佐々木瑞菜(ささき みずな)視点>


 お休みの日は、外に出ることもできずにネットの有料テレビで映画やドラマを見て過ごします。アイドルのお仕事は実はかなり『ぼっち』なんです。同世代のアイドル仲間ってライバル意識が強すぎるので中々馴染めません。事務所が用意してくれた高校も在籍証明書があるだけで、ほとんど通えていません。


 でも、今は違います。西宮家にお世話になって、あっと言う間に一月が過ぎようとしています。この一月を振り返ると心がじんわりしてきます。出迎えてくれる人がいるって本当に嬉しいですよね。


 だって『ただいま!』って玄関を開けたら『お帰りなさい!』っ返事が返ってるんですよ。ロケでどんなに遅く帰ってきても、ちゃんと待っていてくれるんです。もう、疲れなんて吹っ飛んじゃいます。


 それに『行ってきます!』って言ったら『行ってらっしゃい』って。出かけるのが憂鬱(ゆううつ)な時でも、元気が湧いてきます。これって当たり前かもしれないけど、すごくないですか。西宮陽(にしみや よう)くんと西宮月(にしみや つき)ちゃん。心から二人に感謝しています。


 今日は陽くんの幼なじみ、森崎弥生(もりさき やよい)さんが遊びに来てくれています。弥生さんは私の恋のライバルですが、親友でもあります。私には親友と呼べる人が今までいませんでした。芸能界に入る前、小学校の時からずっとです。


 私は東京から上越新幹線で二時間行った、新潟市に生まれました。田舎だと思われがちですが、幼稚園も小学校もマンモスクラス。クラス替えがおこなわれるたびに新しい友達を作らないといけないんです。私が初めてのクラスに入ると、男の子たちは喜ぶのですが、女の子達には嫌われちゃいました。


 グループになった女の子って凄(すご)いんですよ。徹底的に私を排除するんです。陰でコソコソする都会の気遣いなんてありません。まあ、私もはっきりものを言う方だったので衝突してままうのは仕方ないですよね。で、中一になった時に、国民的無敵美少女コンテストに優勝して、私は新潟を捨てました。


 もちろんお父さんとお母さんとは連絡をとっています。実は『ぼっち』な私を心配して、二人が国民的無敵美少女コンテストに応募してくれたのです。


 事務所の方針で新潟出身であることも、平凡なサラリーマン家庭に育ったことも内緒になってしまいました。国民的無敵美少女ってそう言うものなんだそうです。事務所の宮本京(みやもと けい)社長が決めた方針のお陰で、両親とはなかなか会えません。


 両親がお忍びで東京に来た時は、絶対に三人に会ってもらおう。初めてできた私の親友。ふふっ。洗濯を終えて弥生さんと月(つき)ちゃんが、お昼ご飯を準備している陽くんに何かサプライズを用意しているようです。陽くんは一人でキッチンに立っています。弥生さんが大きな紙袋をいくつもかかえながら耳打ちしてきました。


「瑞菜さん。私、今日の為に色々と衣装を作って来ました。瑞菜さんの部屋で着替えて陽くんを驚かそうよ」


 弥生さんと月(つき)ちゃんの目が悪戯っぽく、キラキラしています。きっと私の目も輝いています。弥生さんは表向き、チョー堅物真面目女子で生徒会の風紀委員長をしていますが、実はコスプレ趣味の変態オタク女子なんです。彼女の作る衣装はアニメをベースにしているけど、そのファッションセンスは飛びぬけているんです。そして、ちょぴりエロいんです。

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