第32話 私はどうしたらいいの!

<森崎弥生(もりさき やよい)視点>


 芸能界がここまで恐ろしい世界とは。うわさ以上だ。まさか、ニューハーフでレズビアンなんて変態を人前で堂々と公言する人物が、普通に事務所の社長をやっているなんて。一般の社会では到底認められない。実力があればどんなわがままも許される世界。こんな世界で、中学1年から生き残りをかけてアイドルをしている佐々木瑞菜(ささき みずな)さんが、どれほど強い女の子か理解できた気がする。


 マネージャーさんが私に言った。


「ごめんなさい。弥生さんだっけ。宮本社長は『商品』には手を出さないから大丈夫よ」


 私は意味がわからず聞き返した。


「商品?」


「宮本社長にとってタレントはみんな『商品』なのよ。簡単に言うと『金のなる木』。変な虫(おとこ)がついて商品価値が下がるのは許さないんだけど。ああもすんなり瑞菜さんのことを認めるなんて」


 マネージャーさんが瑞菜さんの方に向き直る。


「気を付けた方が良いわね。瑞菜さん。宮本社長は絶対に何か企(たくら)んでいるわよ。何だか嫌な予感がするわ」


 私と月(つき)ちゃんが来る前に何かあったらしい。


「瑞菜さん。どうかしたの?」


 私は瑞菜さんに尋ねた。今日の瑞菜さんはいつも通り美しい!


「私が陽(よう)くんが好きなことが宮本社長にバレちゃいました」


 普通のアイドルでも男の子との交際がバレたら、大変なことになるのに。さすが国民的無敵美少女、佐々木瑞菜。ケロリとしている。大物感が半端ない。


「兄貴とのことが。でっ、で。あの『カマレズ』はなんて」


 月(つき)ちゃんが目をギラギラと輝かせている。野次馬根性が丸出しだ。この子ったら。でも月(つき)ちゃんらしい。


「『カマレズ』?」


 マネージャーさんは目を丸くしている。


「オカマがレズだから『カマレズ』じゃん」


「言えているわね。クッ、クッ、クッ」


 マネージャーさんは口元に手をあてて笑い出した。


「あんにゃろう、月(ボク)のことポイッって。許さん」


 私も瑞菜さんもマネージャーさんも吹き出してしまった。月(つき)ちゃんは面白い。天然のセンスと言うか。


「『カマレズ』がなんと言おうが、私は瑞菜様の味方なんだから」


 ぬっ、月(つき)ちゃん。さり気無く瑞菜さんにすり寄った。スリスリしたいだけだろ。でも、この子が成長したら宮本社長にだって勝てるかも。って言っている場合ではない。瑞菜さんと陽くんの間のハードルがまた一つ消えた。


 私のことを親友と言ってくれた佐々木瑞菜さんは大好き。彼女は私を解放してくれた恩人でもある。そして幼なじみの西宮陽くんも大好き。でも二人が恋人になるのは悲しい。友情も恋愛もどっちも失いたくない。私はどうしたらいいの!

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