第29話 説得して見せます
<佐々木瑞菜(ささき みずな)視点>
今日の撮影は大手アパレルメーカーの秋の新作CMです。撮影の間中、私は修学館中高合同運動会での西宮陽(にしみや よう)くんの活躍ぶりを思い出していました。私の目に狂いはありませんでした。本気の陽くんの動きは、野生を取り戻した肉食獣の様でした。無駄のないしなやかな筋肉が躍動する美しい姿に、私の心はときめきっ放しだったのです。
「よーし。カット。瑞菜ちゃん!いつも最高だけど、今日の表情は神がかり的だったよ。何かいいことでもあったのかな?」
「ふふっ。内緒です」
私はCM監督に挨拶をしてマネージャーのもとに向かいました。
「お疲れさま!今日の仕事も完璧ね。貴方を見ていると、努力すればアイドルになれると信じていた昔の自分が、どれだけ愚かだったか身に染みるわ」
マネージャーはお茶のペットボトルを差し出しながら言いました。
「で、どうだったの。例の彼」
「はい。想像以上でした」
「そう。もう五年も貴方のマネージャーをしているから、聞かなくても分かるけど。で、どうするつもりなの。いつまでも隠し通せないわよ」
「はい。分かっています。アイドルだから恋をしてはいけないとか、恋人を作ってはダメとか言う時代ではないと思います」
「そうね。私の時代なら、例え恋人が作れなくてもアイドルになれるなら、喜んで受け入れたけど」
「そう言うアイドルを求める子はバーチャルの世界に入り込んでいくと陽くんが言ってました。決して裏切ることもなく、老いることもない永遠のアイドル。自分のためだけに笑い、悲しみ、励まし、歌う電脳アイドルがこれからのライバルですって」
「・・・。何者なの彼?面白いことを言うわね」
「はい。陽くんは『仙人』ですから。だから私は恋をして、嫉妬して、悩んで、怒ったり、泣いたり、喜んだり。時には大喧嘩したり、大失敗もするアイドルになるんです」
「彼がそう言ったの?」
「違います。陽くんは私のことを特別な女の子とは思っていません」
「えっ。でも彼がラブレターをくれたんでしょ」
「中身は陽くんが書いたものですが、名前の所は妹の月(つき)ちゃんの字です」
「ふっふっふっ。面白いわね。国民的無敵美少女を本気にさせる男の子」
「はい。私は西宮陽が好きです。一目惚れなんです。この私がですよ!運命の人なんです」
「貴方のわがままにはつくづく呆れるわ。社長も大変ね。社長は貴方に何千万円も投資しているし、貴方をご両親からお預かりしている身だから抵抗するわよ」
「説得して見せます。だって私は神に選ばれた女の子ですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます