居場所を求めて

春風月葉

居場所を求めて

 無人駅の改札を飛び越え短いホームを走り抜ける。ホームから降りた私はもう汽車も走らない線路の上に足を着く。

 線路の上を歩いて十数分もすると辺りの草木はこの人工の道を避けて窮屈そうに身を寄せ合う。線路に沿って彼らの作る深い緑のトンネルの中へ足を踏み込むと、そこには真っ暗な闇が広がっており外の光が草木の合間から差し込む様は星空のそうだった。

 都での暮らしを捨て、此処に来てからもう一年が経とうとしていた。

 人の多い場所が私には暮らし難くかった。人の居ぬ地を求めて此処に来たが人が居ない地には何もない。喧騒も、陰謀も、何もないのだ。

 人の営みがないこの地では全てが自分のみで完結する。私にはそれが心地よくもあったが同時にひどく暮らし難くかった。

 結局、私に暮らしやすい環境などないのだ。場所が変われば問題が変わるだけなのだ。

 風が吹き、草木は早く出て行けと私に捲し立てるかのにざわざわと身体を揺らした。そそくさとトンネルの向こう側まで急ぐ。

 トンネルを脱けるとそこは一面を花々が鮮やかに飾る楽園とも思える美しい場所であった。花々は風の一息に自らの欠片を託し、楽しそうに踊り出した。

 私の額に一つの花弁がふわりと降り立った風のもう一息で額の花弁は南に飛んで行った。私はそれを追い、楽園から飛び出した。そこに足場はなく、真っ青な海が広がっていた。花弁はより高く飛び、私はゆっくりと海に吸い込まれた。

 どうしてと呟き、その直後に気が付いた。私はあの楽園からも拒まれたのだと。

 居場所がなくては消えてしまう。そうならないためにも私達は巣を作り自身をそこに楔で留めるのだ。

 居場所のない私は消えた。無人駅には誰も訪れない。

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居場所を求めて 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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