エピローグ

 今度はライトが落ちてきた。


 向こうで剥がれた壁の裏からはもう土が見えている。


 崩壊、崩落、ここが崩れ落ちるのも時間の問題だろう。


 人間の歴史が埋まるこの地で、最後の人間、たちが埋まる。できすぎた運命だ。


 それに抗おうとするオワリ、だが落下物により崩壊の原因、叫び続ける縮れ毛へ接近すらできないでいる。


 それは出口も同様、それ以前にもう瓦礫に塞がれ脱出は困難だ。そして例えそこを抜けられたとしても地上までの長い道のり、それも登り道で、崩壊から逃れられるとは思えない。


 ここで終わりだ。


 大声出して笑いたい気分だが、この体ももうだめらしい。


 スピーカーはもちろん、マイクも死に、ナノマシーンも消え失せて、残るは私に崩壊現場の映像を届け続けるカメラだけだった。


 ……そう、私は死なない。ピンチですらなかった。


 この体は私、狗闘天は、サイボーグだ。


 変幻自在に形を変え、必要に応じて硬化するナノマシーン、それを操りマイクとスピーカーとカメラが内蔵された、遠隔操作ドローン、それがオワリの肩に着いていた物の正体だった。


 だから埋まっても、砕かれても、壊れても、私は死なない。


 だから高みの見物でオワリを見守ってこれた。


 そう考えたなら、これは最高のクライマックスだった。


 さぁさぁさぁオワリ、オワリオワリオワリオワリオワリ、私に最高の最後を、を?


 コアに影、オワリ、顔、覗き込まれる。


 いつ見ても、何度見ても綺麗な、美しい顔だ。


 その顔が私を見下ろして、そっと手を伸ばして、私を撫でた。


 その手からは感触も温もりも感じれない。


 それを数度繰り返し、オワリは何かを呟いた。


 私には何も聞こえない、伝わらない。


 ただ、その顔に、瞳に、見惚れていた。


 夢のような光景、不意に離れて終わる。


 私を見つめていた顔が振り返った先、トォイ、あの船の上にいる。


 口を開け、手を振り、まるでオワリを呼ぶように、見えた。


 そちらへオワリは走る。一度も振り返りもせず、瓦礫を飛び避け一足で船上へ、そして中へと入ってしまった。


 希望のフリをした棺桶、オワリの横に男がいるのが気に入らない。


 だが、まぁ、潰れたなら一緒だ。


 私の思い出の中だけは美しいまま…………何故浮く?


 船、成功?


 だがまだだ。飛んでるだけなら逃げられない。潰れるまでのちょっとしたアクシデント、希望などあってはならない。


 船、光る。


 これは爆発の前兆、そうに違いない。かく言う私は爆破オチが好きだ。物語にメリハリがついてわかりやすい。それにいっそ飛び散った方がかえってグロくない。


 船、消える。


 ……消える? いや消えた? いや気のせいだ。カメラの故障だ。瓦礫が遮って見えないのだ。そうだきっと私の心が錯覚を起こして、でなければ、オワリは助かってしまう! この! 滅びた世界で! 最後の一人! 私だけのヒロイン! それが! 自由に羽ばたいてしまう! しまった! しまったのだ!


 爆発でも老衰でも事故死でもゾンビに食われたのでもない、考えうる限り最高のハッピーエンド、これは間違いだ。見間違いだ。そうに違いない。


 コアが壊れた。


 音信不通、通信断裂、瓦礫に潰されたか限界だったか、壊れてしまった。


 追跡は不可能、再検証には新たな体で向かわなければならない。


 だが向かったところで、オワリはいないだろう。


 …………否、これで終わらせるつもりはない。


 あの船が、この世界の技術で作られたのなら、新たに作り直すことも可能なはずだ。


 時間はある。コアを改造し、独立して行動できるようにして、情報と材料を集め、戦力をと整え、私は、必ずオワリを追いかける。


 オワリ、おぉオワリ、世界で最後の人間、君は私のものだ。


 だから必ず迎えに行こう。


 そしてまた、世界で最後の人間にしてあげよう。


 絶望を踏み越えて、私はいつものように、一歩を踏み出した。

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オワリ 負け犬アベンジャー @myoumu

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