vs蛸壺(ボス)3

 ……何度見直しても、縮れ毛の体が吹き飛ばされていた。


 地面を掴む触手は引きはがされ、長い縮れ毛は振り乱れ、シャツが開けて見たくない胸板が開けてる。


 そこに、無視できない凹みができていた。


 吹き飛ばされる瞬間、オワリの手はまだ縮れ毛に届いてない。投げつけたわけでもない。なのに一撃をみまって、吹き飛ばした。


 それも、オワリの体では不可能なはずの強烈な一撃を、だ。


 向こうの壁に当たり落ちる縮れ毛の体は現実、だけども夢としか思えない。


 この現状を、頭は理解している。だが感情は理解を拒否した。


 凹ませたのは空気だ。


 オワリの右手、握りつぶされてた膨大な空気が、指の隙間より指向性をもって吹き出したのだ。


 これが、最後の壁だった。


『壁ドン・第四壁突破』


 流派の流れとして考案され、原理だけは完成された奥義、しかしながら本来の目的、女の子にもてることより逸脱しすぎて誰も挑戦しなかった。


 そんな未完だった奥義を完成させたのだった。


 ……それでも、オワリが無事なはずがないのだ。


 一枚突破で腕があぁなった。


 ならば四枚突破でどうなる?


 好奇心からではなく義務感から、オワリを見る。


 全裸だった。


 全裸だった。


 全裸だった。


 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ぜんらああああああああああああああああああああ!!! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 ぜ! ん! ら! ぜ! ん! ら! ぜ! ん! ら! 


 着ていた服は粉々に千切れ飛び飛び散っている。


 推測するに、あの壁ドン、その反動を、吹き飛ぶはずだった右手の圧力を、受け流したのだろう。あの名もなき鎧通しの応用、地面に流すのは間に合わないと服へ押し付けたのだろう。


 ……驚異的な成長、驚異的な応用力、やはりオワリは天才の全裸だった。


 そんなことより全裸だ。


 見たい。なんだかんだ長い付き合いで全然見れてない裸、ようやく見える好機、だが見えない。


 尻、陰がかかって見えない。


 胸、腕で隠れて見えない。


 息を吐き、肩で息し、逃しきれてないダメージに、ぐっしょりな汗、疲労、倦怠感、舐めまわしたいのに肝心な部分が見えてない。


 恐らく全身が鉛のように重く感じていることだろう。そんな体でふりかえ邪魔! じゃああああまああああああああああ!!! 服じゃあああああまああああああ!!! 切れ端じゃああああああまあああああああ!!! きいいいれえええええはああああじいいいいい!!! みいいいいいえええええええなああああああいいいいいい!!!


 飛び散って舞ってそんで風もねぇのに私のコアの上とか乗って視線きんじゃねぇえええよ見えねぇじゃねぇかあああ!!! どかすナノマシーンものこってねぇんだぞくそがあああああああああああああああ!!!


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 あ、退いた。


 とおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいい!!! おおおおまあああああああああええええええええええええ!!! ちいいいいがあああうううだああああろおおおおおお!!!


 なんでお前はオワリに服持ってきて差し出してんだよ! 着ちゃうだろうが! 見えなくなんじゃねぇか! 裸じゃなくなんだろが!


 しかも自分は目ぇそらして見ねぇとか純情か? 純情なつもりか? 純情ならそこどいて私にオワリの裸を見せろ。


 私はオワリの裸は見たいんだよおおおおおおおおお!


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ……魂の叫びが壊れたスピーカーを通して吐き出される、わけではなく、私ではない誰か、何かが、叫んでいた。


 縮れ毛、遠くにあってもその体がどうなってるかはよく見える。


 手足を投げ出し、触手も伸びて、ただ口だけを大きく開き、全身をガタガタと痙攣させて、残る力を魂と吐き出してるかのように叫んでいる。


 大音響が、これまでの比ではない空気の振動が、この場のあらゆるものを揺らし、震えさせていた。


 建物の窓が割れる。


 遠くの木々から葉が舞い散る。


 自慢の船ガタガタと震えている。


 オワリもトォイも耳を抑えて苦悶の表情を浮かべている。


 そして、地面が揺れているのは地震ではないだろう。


 どおおおおおん!!!


 上から落ちてきたのは分厚い何か、間違いなくここの天井だった。


 崩壊が始まった。

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