第10話から13話

10

 彼らが帰ったあと、私は少し考えました。

 鍵がかかった部屋でおこなわれた密室殺人。ミステリー小説ではよくありますが、なぜそういうことをするのでしょうか?

 お話としては確かに面白いです。不可能なことへの挑戦といいましょうか。

 しかし現実で言えば、部屋のドアを開けたまま逃げたところで大差ないはずです。

 仮に鍵が閉まっていても、ほかの証拠があれば「合鍵を持っていたんだろう」で終わらせてしまえばいい。

 現実的にありそうなのは「偶然密室になった」とかじゃないですか。事故。事件。

 例えば「鍵が掛かっていることに気づかなかった」とか。


11

 一つの仮説です。

 従者がいる金持ちの家。近所にも人がいる。結婚式もやってる。

 そういった家に誰にも気づかれずに入り込んで部屋の鍵をあけ人を殺し、そして逃げる。

 これは非常に難しいはずです。

 恨みがあってもそういた技能がない人間にはできません。

 ではこう考えてみたらどうでしょうか?

「鍵が掛かった部屋に人が現れ、そしてまた消えた」

 普通ならできません。そんなのは魔法です。

 でもそんな魔法ができる人がいます。

 

 あの身なりがいい男の一族の誰か。


12

 まずどこでもいいので異世界に転移します。

 そしてすぐに元の世界に戻ってくる。場所は被害者がいる部屋。帰りの場所は指定できると彼は言っていました。

 そして殺害。

 そして異世界に飛ぶ。

 また帰ってくる。

 

 これで屋敷の従者や近隣の人間にばれることなく殺人現場から逃げることができます。


 そしてこれなら密室殺人の理由もわかります。


「鍵は最初からかかっていた」


 それだけです。

 そこから出入りするわけでないから鍵など確認しない。しかしほかに出入りする場所もない。

 結果奇妙な密室殺人になってしまった。


 動機はわかりませんが、特定の仕事を独占する金持ちの一族の事。

 金か。権力争いか。まぁそんなところでしょう。

 

13

 どうです?

 仮説としてはよくできてる方だと思いませんか。

 しかし、彼らが帰ったあとに気づいてもどうにもならない。

 彼らはまた来るわけでもありません。もしかするとほかの異世界人が気づいたかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。

 それもわからないわけで、どうにもなりません。

 

 ですからこんな覚書をしたためて満足するしかないという次第なわけです。


終わり


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異世界の殺人事件を裁き損ねたことについての覚書 飛騨牛・牛・牛太郎 @fjjpgtiwi

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