あいつ
「挨拶を、二度目ですね。すめといいます。今度からあなたの世界に一緒に同行することになりました。よろしく」
あ、よろしく……、え?
「一緒に行くってなんですか!? というかここが別の世界ってどういうことですか!?」
溜まり溜まった疑問やら何やらが爆発した俺は、二人だけの密室であると言うことも忘れ、思わずそう叫んでいた。普段の俺なら考えられない大きな声だ。
「落ち着いて。説明します」
「この情況で落ち着いていられますか!」
俺の大声にも、相変わらず淡々とすめという少女は答えるが、もう俺が落ち着けるわけがなく、また大声で反応する。
「いいから、落ち着いて」
「……は、はい」
だというのに、頬を両手で触られ、じっと見つめてそう言われたら、情けないことに、俺はもう頷いて黙るしかなかった。
「落ち着きましたか?」
「……はい」
恥ずかしいけれど、おかげで少しは落ち着いてきた気もする。すめの質問に俺は再び素直に頷いた。
「私たちの目を盗んだやつに、殺された。それはわかりますか?」
「……はい」
すめの言葉に、落ち着いてきた俺はしっかり頷きながら、その時のことを思い返す。
正直、熱すぎて痛かったことしか覚えていない、と言うのが本音なのだが……男に問いかけられたこと、どういうわけか燃やされたことくらいは流石に覚えている。思い出したくもないけれど、あの痛みでは忘れることもできない。
「あ、あの男は一体……?」
「あれはおそらく、世界に違和感を持つことができるあなたを消しさろうとするもの、でしょうね」
ことを思い出しながら呟いた、呆然とした俺の言葉に、すめは冷静に説明を続けた。
彼女の言った、世界に違和感を持つことができる……とは。確かに、いつも世界に違和感を感じていた俺のことなのかもしれない。
でも、その違和感の理由は一体なんなのか。彼女なら何か知っているのだろうか。
「世界に違和感って、どう言うことなんですか? 確かに俺は、ずっと違和感を持って過ごしてきたけれど……」
「その世界は、変えられたものだから、です。あなたは正しい歴史から変えられた歴史の流れに、左右されない力を持つ。だから、狙われるのです」
すがるような俺の質問への、すめの答えは、俺にとっては驚くべきものであった。
今までの違和感が……正しい歴史? じゃあ、違和感を感じていたものこそが虚偽だったと言うことなのか? おかしいと思っていた俺の違和感が、本当だったというのか?
「狙われるって……誰に……?」
疑問が次々に浮かぶ中で、次に浮かんだ疑問を、俺はまだ驚きの残った顔ですめへ投げかける。
「
すると、彼女はまっすぐと俺を見て、そう、言い切った。さらに
「我々神々に目を欺き封印を解き、どこかへ逃走するような力があるのです。今のあいつは神々が戦っても、返り討ちにあうだけです」
確かに、俺らでは考えられない力を持ち、それをさらに突破したのだ。納得しようがない。けれども、
「でも俺は、何もできない人間ですよ? 元の歴史がわかったところで、何もできないのに、なんで……」
そう、違和感を感じる人がいたくらいなんなのだ。現に俺は、おかしくなっていた日本で何もしていなかったではないか。
「今の人々は信仰心が薄い。だから我々の力が弱まった一因でもあります。彼は信仰されなくてあのような力なのです。もし進行してくれる人が増えたら不都合になるのはあいつです。あなたにはそれがあるのです。微々たるものでも、改変された歴史の中にいれば何が起こるかはわからない。だから狙われたのでしょうね。
それにあなたには特殊な能力がある」
けれどもすめは、俺の反論にも、冷静に、ただそう述べた。
俺が狙われる、その理由を俺が納得出来る理由は、それで十分だった。だけれど、理由納得はできたとしても、狙われることに納得なんてできはしない。
「それで……俺は、どうすればいいんですか? 元の場所に、どうやって戻るんですか?」
俺はこぶしを握り締め、行き場のない怒りを押し込めて、すめへと問いかけた。
「先ほども言った通り、私と一緒に元の世界に戻ります。……ただこの話を聞いたので神獣を授けます」
すめは続けて
「今回はお父さんがあなたを運び、大見さんが治療しましたが、ことが起きてからでは遅いのです。もし殺されてしまったら、もうそれが、もうこの世の終わり」
すめの、一言一言の真剣な言葉に、俺はただ頷くしかなかったのだ。
何を言っていいか分からなくて、俺たちの間には沈黙が流れている。
すると突然、この部屋の扉がすうっと開いた。
「よお。起きてるみたいだな」
そう言って扉から入ってきたのは、先ほどの医師と言っていた人物、大見さんであった。
「で、すめ。話は済んだのか?」
「説明はしました。が、飲み込めているかは分かりません」
すめと俺の横に歩みを寄せながら大見さんが質問すると、すめは俺に目配せをしてそう答える。
確かに図星であり、理解してくれているのは少しありがたい。
「そうか。お前は戦わなくてはいけない。お前は戦うのは嫌か?」
すると、大見さんは俺の方を向き、そう質問をしてきた。
「そ、それは勿論、戦いたくないですけど……」
それに俺は、しどろもどろながら正直に答える。すると……
「なら戦わなくてもいい」
「え……」「ちょ……」
そう続けた通り、先ほどの言葉に従いかけているのも事実。死ぬくらいなら、ここにいたい、と臆病な俺は思うのだ。
「だがな、かぐつちの野郎が暴れてみろ、お前の生きている家族、死ぬかもしれないぞ」
俺は反応する。家族が死ぬところを見たくない。
「友達も死ぬかもしれないぜ」
友人が死ぬところも見たくない。
「だがお前があの世界に戻れば、助けられる可能性は出てくる。大切なやつっらを守れるかもしれない」
そうだ……。 俺が守ればいいのか。俺は戦えない。すめさんだけで?神獣は?
俺の決意した顔を見た大見さんは口を開く
「それじゃあ行くか」
すめもあんした顔で
「ですね。では、行きましょうか」
すめもそれに賛同した。俺はこれからどうすればいいのかと自分で葛藤しながら。部屋を出て行く。
外は青空いっぱい。眩しかった。
そのままあの奥の立派な、平安宮殿へ。
イザナギさんにことを伝え、自分の生きた世界に戻るのだった。
ランプ @yatamikami
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