ウィッチゴーレム
山岡咲美
第1話「ウィッチゴーレム」
「距離、50000メートル、406ミリメートル
女は[ウィッチ]と呼ばれていた。
「45000を切ったら前部ランプ扉を開けろ、先行して下から突き上げる」
女の居るコクピットの前、
男は[ウィザード]と呼ばれていた。
「45000、ランプ扉 開く」
男の前に在る壁が押し出される、風がキャビンへ叩き込まれ壁は沈んで行く、それは笑えるほどでかい金庫の扉の様だった。
男はゆっくりと立ち上がる、分厚く脚部を包むズボンと体のラインにピタリと合った上着、女と同じ空軍パイロットの正式戦闘飛行服だ、腰には杖が在り魔法伝導性の高い
扉の向こうに景色が見える、分厚く永遠と続くかの様な黒く低い
「先行するぞサクラコ」
男は振り返りもせずキャビンからその身を投げた。
ガラス越しのサクラコは静かに目を閉じる、彼女の脳内に機体からの全周囲映像と軍の持つ全ての情報が流れ込む、口元は
「行ってらっしゃいヒラサカ君、私の王子様」
落下するヒラサカの視界にそれは映る、人型の機械が空を進んでいた。
全長38メートル、その大きさ故に
上半身、下半身に比べ相対的には小さくみえたがそれでも12メートルはある、コクピットとその前方部のキャビンが機体中心部に収まり、胴体は細身で
魔道空戦機[ウィッチゴーレムwg22b]である。
***連合国軍輸送飛行船アクロン***
1時間前
全長478メートルにも及ぶ飛行船にはウィッチゴーレム4
「観測員からの情報によれば4騎の敵ウィッチゴーレムが
ブリーフィングルームで飛行隊長が二人に話す。
「いいか王子様、お前の任務は敵を殺さず捕虜にする事だ、敵に現状変更の既成事実を作らせず更に戦争の口実を与得ない上で人質交渉に持ち込むんだ」
「はあ…飛行隊長、それは良いのですがその[王子様]は止めていただきたい」
「何いってるのヒラサカ君、アカデミーの頃から使っている
「まさか軍でまで使うとは思ってなかったけどね、あとヒラサカ1尉だ、サクラコ3佐」
「良いじゃない1尉、上官のめーれーです」
(何でこんな事になった俺?)
飛行隊長は少し笑う、アカデミーの頃とは立場が逆転しているのを知っていたからだ。
「いいか王子様、これはお前ら2人がスペシャルだから可能な作戦だ、要望通り駆逐攻撃隊のナイトウォーカー×バックツイン組は下げさせた、2人でやらせてやる、必ず成功させろ!」
***再び戦場へ***
ヒラサカの前に地面が迫る、スローモーションの様に身体を
そう、
「サクラコ聞こえるか?」
ヒラサカは意識をサクラコのウィッチゴーレムへと向ける。
「ヒラサカ君の声が私に聞こえ無い事なんてあった?」
ヒラサカは少し苦笑いした。
2人は
「サクラコは
「ステルス性能を活かすのね」
「ああ、奴等に反撃の機会は与えない」
距離3000メートル
「見えた」
山影から低空飛行している、敵ウィッチゴーレムをヒラサカは
「情報通り重装甲スカートフロート型4騎、武装は右ハードポイントに240ミリメートル
「じゃあ、これで撃っても死なないわね」
サクラコは右ハードポイントが持つ長射程の超重量弾を超高速で撃ちこむ、ろくでもない武器を見詰めそう言った。
「………」
ヒラサカは確かに死にはしないと思ったが中の奴等に同情した。
「ヒラサカ君、狙撃位置着いた」
サクラコは全ての感情をすうっと引かせ、引き金を絞り始める。
「撃て…」
ヒラサカは自己の目標を捉えつつ静かに伝える。
一瞬重雲がオレンジ色に染まる、放たれた
「回避する」
サクラコのウィッチゴーレムは素早く回避行動を取った、人と同じ箇所にある関節は二つの駆動部から成っており生物を超える滑らかな動きを示し重雲の上をフィギュアスケーターの様に移動した。
「
敵ウィッチゴーレムへ向かい急加速したヒラサカは敵ウィッチに観測されるが、その姿を瞬間この時空間から消し突如 敵ウィッチゴーレム前部ランプ扉 前へと現れた。
「喰らえ」
ヒラサカは敵ウィッチゴーレムの2倍はある巨大な光りの輪を降りぶった拳の先に創り出し、そしてそれはウィッチゴーレムへと振り抜くと共に
2つの音、衝撃波が2騎の敵ウィッチゴーレムを揺らした、サクラコが放った弾丸も同時にもう1騎を捉えており、その重量×速度で魔法障壁を激しく叩いた、弾丸のなかの
「次だサクラコ!」
サクラコのウィッチゴーレムは既に第2射の準備が整って居る。
「撃ちます」
重雲がまたオレンジに染まる。
「
ヒラサカは眼下に最後の1騎を捉える。
「
ヒラサカは杖を取り出し剣の様に構える、魔法石の蒼い
「なにあれ?…」
「透明な剣?…デカイ…??」
キャビンから出る事が出来た唯一の敵ウィザードがそれを見た時には全て終わっていた。
「大丈夫、殺すなと言われている」
ヒラサカはその手にあるウィッチゴーレムの全長ほどある透明な魔法の
そして敵ウィザードは圧倒的な力の差に身動きも出来ず、ただゆっくり浮かびそして地に足をつけるしか無かった。
「さてと仕上げだ、スパイのデータだと首筋らしいけど…」
ヒラサカは推進機を失い
[
装甲の下、背骨にはそう在った、ヒラサカは杖を再び使う、今度は細いレイピアの様に。
[
ヒラサカはそのレイピアで最初の[e]の文字を削る、ウィッチゴーレムから命の息吹が消えた。
「これでおしまいだ…」
ヒラサカは敵ウィッチが意識を取り戻す前に残り3騎にも同じ処置をほどこした。
ウィッチより先にウィザード達が目を覚ます、支援機であるウィッチゴーレムを失ったと知り彼等は腰にある
「ありがとうウィザード…」
ヒラサカは静かにそう言った。
そしてこの
***静かな重雲の下で***
エピローグ
「ローズウィッチよりアクロン、ミッションコンプリート、本騎はこれよりセカンドミッション、捕虜収用支援にあたる」
「アクロンよりローズウィッチ了解、回収部隊は10分後到着予定、おつかれさまウィッチ、おつかれさまウィザード」
サクラコは目をゆっくりと開き
「やっぱりアカデミー時代の
王子様がこっちを見て笑っている。
ウィッチゴーレム 山岡咲美 @sakumi
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