空気の国と水の国

くらもとかいよう

空気の国と水の国

世界のあるところに、二つの国がありました。片方は空気の国といわれ、もう片方は水の国といいます。

 長い歴史の中で、空気の国の人々は空気だけを吸って生きられるようになり、空気を神様として信仰し、水の国の人々もまた水だけを飲んで生き、水路や噴水を中心とした都市や町が作られていました。

 あるとき、二つの国はもっと交流を増やそうと山にトンネルを掘り、船を通す為の運河を建設しました。水の国には空気の国の品物がでまわり、空気の国には水の国の人々が暮すこともありました。

空気の国人は空気を、水の国人は水を、とても大切にしていました。


***


「いやぁ、今日は暑いですね。この公園は日陰が少ない。」

「お隣据わってもよろしいですか?」

「ええ、もちろんどうぞ」

昼の時間、空気の国の公園のベンチに座っていた男性の隣に、もう一人の男が座ってきた。

「それにしても暑いな。ここは日陰だし、昼飯にでもするか。」

後から座った男は、肩に下げていた水筒の蓋を開けて、飲んだ。

「あーっ美味い。こう暑い日には水に氷をたっぷり入れてのまないとなぁ!」

 男は水の国人だった。

「ねえ、あんた。それは残酷すぎやしませんかね。」

 先に座っていた方の男がいった。

「水をそんな狭いとこに閉じ込めて、凍えるくらいにまで冷やして、肩に吊り下げて長い時間揺らして苦しめた挙げ句、生きたまま丸呑みにするなんて―。」

「はぁ?」

「今まで黙っていたが、あんたらの非道さにはもう耐えられん!」

「この!」

男は水筒を殴って地面にたたきつけた。もうひとりの男は空気の国人だった。

「いきなりなにすんだ!じゃあ俺も言わせてもらうがね、おまえら空気の国人はなあ―!」


***


 水の国のとある町―

 突然アパートの窓ガラスが割れた。部屋の中には手のひらサイズの石が飛び込んできた。

「うわっ!一体どうしたんだ!誰がやった!?」

 犯人はすぐ姿を現した。

「空気の国人の害虫めー!」

「馬鹿野郎!弁償しろ!」

「悪いのはおまえらの方だ、水の国の人間はみんな思ってるよ!おまえらのような空気の国人が町をうろついているとろくなことがねぇンだってなぁ!出てけー!」

「みんなー!ここにまだ一匹残っているぞ!」

 共犯者たちも続々と集まってきて

「出てけ!」

「出てけ!」

「出てけ!」―。

 外で大合唱が続くなか、部屋に置かれたテレビはついたままだった。

「水の国放送、正午のニュースをお伝えします。」

「大統領府は本日未明、空気国に対する経済制裁措置を実行しました。」


***


 真夜中、灰色の軍艦が一隻、沖合を航行していた。

「目標、水国第二、第三ダム!位置情報入力完了!」

「巡航ミサイル発射準備よし!」

「発射!!!!」

 甲板から赤い閃光がはしり、瞬く間に二本の光の矢となって水平線の彼方へ飛んでいった。

両国の諍いは軍事衝突に発展したのだった・・・。


***

 

「大統領、準備整いました。」

 破壊されたダムを背景にして、演説が始まった。

「水の国国民の皆様、今回は非常につらいお話をしなければなりません。私たちが長年かけて作りあげたダムがこのように破壊されたのです。」

「現在、現場の方々が復旧作業に励んでいます。」

「ダムを破壊した連中は、なんといっているでしょうか。」

「残酷で非道な人間には何をしてもかまわないというのです!」

「皆さん、このように生物の共有財産である空気を吸い、その資源を浪費するような連中を許してはいけません!」

「先ほど、空気国に宣戦布告をいたしました!」

「奴らを殺し!この世界から消し去り去りましょう!皆様のお力が必要です!!!!」

「いいぞー大統領!」

「奴らを殺せー!」

「奴らを消し去れー!」


*** 


戦いは激しさを極めていった。

地上には無数の砲弾の穴ボコと、戦車が這った跡が残り、空では戦闘機が連日「花火大会」を催していた。海底は沈んだ軍艦で埋め尽くされた。

犠牲者も数え切れないが、それでも彼らの意思が変わることはなかった。

そんな時だ。

「ええー。こちら空気水同盟国軍。作戦行動中の全部隊に次ぐ!」

「空気国と水国は同盟を組むことになった!直ちに戦闘を中止せよ!繰り返す、直ちに戦闘を中止せよ!」

 突然通信が入った。しかし当然、

「ふざけるな!」

「我らの崇高な目的を邪魔するなど―!」

命令受け入れ拒否の返信もきた。

「いや、待ってくれ。我々はもっと邪悪な敵に立ち向かう必要がある!」

「敵は麦や米や芋やトウモロコシや豚や鳥や牛や羊や魚やクジラや花や果物や葉っぱやキノコや塩や砂糖を食べるんだ・・・・。」

説得が済むと、やはり苦痛の叫びが飛び交った。

「何だって・・・。」

「あ、悪魔だ・・。」

「なんてひどいことを・・・。」

「君たちがつらいのはよくわかる。だが我々はこの危機を乗り越えなければならない!」

「空気と水、みんなの力を合わせよう!」

「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 兵士たちは、新たな戦地へと向かっていった。

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