6(完)
大雨の中、消えた息子を探しに来たお母さんと近所の大人たちによって、ぼくは家へと強制送還された。ぼくの街は記録的な豪雨によって川の水が土手を越えて、一部の地域に甚大な浸水被害を与えた。学校の授業も午後は被災した家の片付けの手伝いになった。被災地域は雑木林が水流によってなぎ倒れたり、家の中が泥まみれになったりしていた。それでも猫の死骸は一匹たりとも見つからなかった。
悠一くんの引っ越しと転校は、被災したクラスメイトが学校を休みがちだったこともあり、クラスではあまり話題にならなかった。猫の耳よりも、おのが生活の方がずっと大事なのだ。
大雨の日からしばらく経って、泥を掻き出す手伝いももう終わりという時に、ぼくは猫の鳴き声を聞いた。この街で猫の鳴き声を聞くのは久しぶりだった。
ぼくはその家を出て、鳴き声の方へと歩いた。いや、たまらなくなって走った。するとなぎ倒れた雑木林の隙間から、猫の尻尾が見えた。尻尾と言っても途中で引き千切られている汚い尻尾だった。
「ブルー!」
ぼくは猫に向かって呼びかけた。するとその猫はこちらを振り向いてくれた。ぼくはその顔を見て驚いた。耳が、両耳が、半分を切り取られていたからだ。
その猫はぼくの足元へやってきて一声鳴いた。するとその猫のあとを、同じ容姿をした小さい子猫が二匹ついてきた。その猫たちは、一匹は右耳を、もう一匹は左耳を半分だけ切り取られていた。ぼくは切り取られた部分が綺麗な正三角形だろうことに気がついた。呆気にとられるぼくを
ぼくは家に帰ってから、悠一くんがモデルの絵を引っ張り出した。右上には「銅賞」と書かれた紙切れが貼り付けてある。その絵を勉強机の横の壁に画鋲を使って飾ってみた。
ぼくはこの人が好きだ。そう思った。
END
耳のない猫 りゅう @ryu_kasa
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