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「ブルー、ご飯だよ」
ブルーはぼくの家の裏に住み着いた猫だ。真っ茶色な毛並みで、尻尾が途中で無くなっている。街の猫は綺麗に耳を切り取られていたが、ブルーの尻尾は不格好且つ不自然で、まるで絞った雑巾みたいに引きちぎられている。ただでさえ尻尾がないのに、耳までなくしては可哀想だと思い、家の裏に鉢植えを重ねて、簡易的な猫小屋を作ってあげた。お母さんは動物が嫌いだし、尻尾がない猫なんてなおさら飼いたいと言い出せない。
ブルーの頭を撫でながら、なんて汚い猫なんだろうと思った。毛並みの茶色はブラウンというよりかは泥色。けれど瞳だけは透き通るような青色で、悠一くんの瞳の色にそっくりだった。
悠一くんの瞳を描く時に、黒い絵の具を出した時だった。
「俺の目って青いんだよ」
ほらねと言って、奥二重の切れ長な目がぼくの顔を捉えた。引き込まれる深い青は、小学生の時に集めていたビー玉を思い出させた。
美術の授業、二人一組でお互いの顔を描くことになった。最後までペアが決まらずにひとり座っていたぼくの向かいに、悠一くんがやって来た。お互い口も開かずに絵を描き始める。教室のどこにいても耳に入ってくる彼の声に対して、彼の顔を見つめるのは初めてだった。
黒い絵の具で描くのは、ちょっと癖があるけど全体的にさらさらした髪の毛、長さの揃った太めの眉毛、天を向くように伸びるまつ毛。赤い絵の具を出して唇を描く。薄っぺらいのに肉厚な印象で、上唇と下唇は同じ厚さで並んでいる。水分を多く含んでいて、赤というよりピンクに近い。肌色を何色も作りながら、血色がよく柔らかさを感じる頬と、謙虚な高さながら存在感を放つ鼻を描いた。外で運動しているからか若干の焼けがある肌だが透明感のある小麦色。全く産毛がない彼の顔はすべすべしていて、スケッチブックの紙よりも綺麗な質感だった。首から胸元に視線を降ろすと、ワイシャツの下に白っぽい肌色が隠れ見えた。服の下は日焼けしていないんだなと思った。
ブルーが鳴き始めたので、慌てて頭を撫でる。あまり大きな声を出されると、内緒で面倒をみていることがバレてしまう。ブルーを拾ってきた本当の理由は、瞳の色が彼に似ているからだったのかもしれない。
「お前の敵は、お前と同じ目の色をした少年だよ」
ブルーへの忠告を済まし、ぼくは家の中へ入った。
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