耳のない猫
りゅう
1
ぼくの住む街では、多くの猫が耳を失っていた。誰かに切り取られていた。
担任の赤井先生が言うには、去勢手術を行った野良猫には耳先をちょこっと切ることがあるらしい。しかしこの街の猫はそんなもんじゃない。
この前、下校時に猫が飛び出してきたので、慌てて自転車のブレーキをかけたことがある。悪びれる様子もなくこちらを睨んできた猫は、右耳が半分なくなっていた。ずいぶん前に切られたのだろうか、出血もなく真っ直ぐ綺麗に切り取られた耳は、数学の授業で出てくる台形を思い出させた。
テレビでも話題になっていた。夕方のニュース番組では、ぼくの街が特集され、民家近くの雑木林や商店街に出没する耳のない猫が映し出された。他にも動物愛護団体が無慈悲な虐待行為をやめるよう呼びかけたり、元FBIだという人が犯人像をプロファイリングしたりする様子が、ワイドショーを賑わせた。
「犯人は社会的に弱い立場にあるのかもしれません。動物の中でも非力な猫を、また耳という生命への危険は少ない器官を狙うことで、恐怖心を抱えながらも自己の抑圧された環境への反抗を試みています。また警察の捜査が難航且つ長期化していることから、計画的な犯行である可能性が高く…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます