おまけ その後のサトちゃん、シムキエル

◆ サトちゃん(52話)縫い物が得意な化け狸。


 お久しぶりだあ。タヌキのサトだよ。

 ソフィアさんとマルちゃんさんに、奉公先まで連れて来てもらっただ。いい職場で仲間も優しくて、楽しく仕事をしているよ。

「ちわー。布ください! それと、職人募集を見てきました」

 仕事場の入り口で声がする。結婚して他の町に移っちゃった人がいてな、新しい人を募集してただよ。


「はーい、すぐ面接するわ! て、アンタ何の種族!??」

 女将さんが対応してるけど、どんなのがいたんだかな? ちょっと気になるなあ。仕事中だもんで見に行かれない。聞き耳だけ立てた。

「ははははは、俺が誰かと問われれば! 我が名は竜人族のアンドレイ、高速の拳の男! ただいま見参!」

「牛も運べる力持ち、同じく剛腕のデイビッド、参上!」

 竜人族だあ。とっても強いらしいよ。でも、布を織ったり服を作る仕事なんて、できるのかなあ。

「私は兎人族です。村の子が、ここに住み込みで奉公していると聞いたんで、私も雇ってもらいたくて」

「あらあら、あの子は明るくて仕事が丁寧だから、とっても助かってるよ。大歓迎よ! ……で、竜人族って? 布くださいって、どういうこと?」

 

「僕達は基本的に家族で自給自足をしてて、たまに他の種族と物々交換で欲しいものを手に入れてたんだ。僕と兄者は最近、人間の村の仕事を手伝って、ものを分けてもらったり交流してる。そこでここなら好きな色の布や、欲しい服を作ってもらえるって聞いたんだ~」

「布と、母さんへプレゼントする服が欲しい。金はないが、その分仕事をするぞ!」

 お母さんへの贈りものをしたいから働くなんて、意外だねえ。頼む、と必死に食い下がっているよ。

「うーん、それはいいけど、アンタ達って裁縫とかできるの?」

「任せろ! 針に糸を通す練習をしてきた!」

「布をまっすぐ切る練習もしてきたよ~」

 全然できないんだあ……。味方したいけど、どうしたらいいだかな?


「ねえねえサトちゃん。すっごい気になるね……!」

 隣で刺繍をしている兎人族の子が、体を寄せて小声で話し掛けてくる。この子は縫いものも刺繍も上手だから、仕上げを任されるんだよ。オラは型紙を布に移して、これから切るんだあ。

 奥の部屋からは布を織る機械の音がしてるよ。

「んだぁ、どうすだかなあ。兎人族の職人さんが増えそうなのは、嬉しいねえ」

「うん。竜人族が連れてきてくれたのかな、私達は戦えないもん」

 そう考えると、優しい種族なんだなあ。


「アンタらを雇っても、教える時間がかかるだけだわ。しかも一時的じゃ、手間が増えるだけ。ソレより強そうじゃない、護衛をしてくれない? 納品や買い付けで色々移動するからね。その報酬として、服をあげるわ。ご飯も出すよー!」

「それなら得意だ! 俺とデイビットに任せてくれ!」

「やったな~、兄者! 母さんも喜ぶ!!!」

 とても嬉しそうな二人の声。この村には布の仕事をしている家が多いから、たまに狙われるらしいだ。


「ピキュキュピキュピキュ!!!!!」

 四本足の蛇、赤い尻尾のピスハンドがご飯をねだる。すっかり慣れて、ご飯時になるとどこからか私達のところへ来るんだ。もうそんな時間だっけか。

「ピスちゃーん、今日は柔らかいパンだよ」

「あ~、オラがご飯をあげる番だよ」

 最初はちょっと怖かったけど、すっかり慣れただよ。みんなで順番を決めて、ご飯をあげてるんだ。ピスはおうちを守ってくれるらしいし、人気者になっただよ。

 パンは任せて、オラはミルクを用意するべかな。パンとミルクの組み合わせ、美味しいよねえ。


★★★★★★★★★★★★★★



◆ オルランドと破壊の天使シムキエル


「シムキエル様、ではそのように致します」

「任せたぜ。もし強敵がいたら呼べよ、俺の獲物になるヤツな!」

 シムキーが配下の天使に命令している。相変わらず悪の組織の中ボスみたいだ。

 どこかの世界で仕事があるんだって~。シムキーは指揮しなきゃいけないのに、簡単そうな仕事だから全部任せちゃってるよ。

「……心得ました」

 多分だけど、面倒だから呼びたくないって思われてる。


 僕は一人で火をおこしていた。食材を集めたから、これから食事なんだ。

 村で買ってきたパンとジャム、お肉もあるし、豪華になるぞ~。森で採れたキノコを焼いて、果物を川の水で洗う。今晩はここに野宿するよ。

 天使は用事が済むと、すぐに帰っていた。

 僕はパンにジャムを付けて頬張り、肉とキノコの焼き具合を確かめる。いい匂いがしてきた、もう我慢できないなあ。

 満足の夕食を終えて、少しした頃。


「なんか……クラクラする……」

「テメエ、またおかしなものを口にしたんじゃねえだろうな。俺の契約者だろーが、いやしい真似はやめろ、つってんだろ!」

「手もふるえる……。お腹もおかしい……シムキーもおかしい……」

「おかしいのはテメーだ!!!」

 シムキーの顔がぼやけて二重に見える。新しい技かな。シムキーは僕が食べた食料を確認していた。


「このビンはジャムか?」

「買った、ヤツ……」

「怪しくはねえな。この串は何だ」

「肉と……新鮮……キノコ……」

 食べ残したキノコの、欠けた部分が青黒く変色していた。シムキーは一つを摘まんで目の前に持って行き、確認している。

「絶対コレだろ! だから知らねえモンを食うなって、何度注意すりゃ分かるんだよ!」

「でも、この前食べて美味しかった、キノコに似てるよ……」

「見分けが付かねえクセに、それっぽいだけで食うんじゃねえよ!」


「シムキー翼が六枚になった……。目は四つ」

「ならねえよ! 幻覚系かよ」

 怒鳴り声が頭に響く。シムキーは怒りっぽいなあ。

「どうしました?」

 シムキーが騒ぐから、心配して誰か来たよ。やたら背が高くて、ヒヒヒって笑顔の人。巨人かな? 後ろには影みたいな人を連れている。

「どうもこうも、契約者が毒キノコでも食べたらしくてな。中毒を起こしてる」


「あ~、よくいるんです、食料が足りなくなって空腹に耐えきれず……、って感じでもないですねえ。……なんで食べちゃうんですか?」

「俺が聞きてえよ……」

 片付ける途中だったので、纏めた串やジャムがたき火の近くに残っている。さっさと串を火に入れちゃえば良かった。僕が座っていた近くには、キノコも果物も残りを置いたまま。

 キノコは黄土色してカサの中心が盛り上がっていて、小さいながらも美味しそうに群生していた。ヒダは紫っぽい。

「……コレを食べたんですか。日陰に生息する毒キノコですね。名前はヒカゲシビレタケ。似てる食用キノコがありますが、気をつけてくださいよ。幻覚作用やめまい、痺れなどを起こします。数時間で回復します」


「なら放っとくか。痺れてりゃ、幻覚を見たって急に走り出しもしねえだろ」

 シムキーが僕を見捨てる。酷い天使だ。

「シムキーは意地悪だから、手足から蛇がぶら下がるんだよ……」

「……お前、どんな幻覚見てんだよ」

「危険で規制されているから、販売どころか持ち込みも禁止なのですよ。そんなものを食べるんです、おかしなものを見て当然です。痛い目に遭って、改心すればいいんです」

 でっかい男性の後ろにいる、輪郭のぼやけた影が喋ったよ。喋ると動物みたいな顔が浮かび上がる。


「あ〜、影が喋った……、それは猫なの? 象なの?」

「ムキュー!!! 私は羊人族の女医ですっ! どうせ問題ないし、薬を処方しませんからね」

 動物の顔のコブがある影は、自分は羊人族だと怒る。そういうえば、丸い角があるよ。手にだけど。

「二択までおかしい。ちょっと診てやれよ」

「ありがとう、親切な巨人さん。裂けた口で僕を食べないでくださいね。それにしても、さっきから話し声がしてるんだ。……森の方で、誰かが怪我して寝てるって、困ってるよ。そっちを診てあげて……」

「マジでヤッベーのキメてんな、こいつ……」

 

 しばらくこんな感じで、僕はおかしなものと会話した。

 興奮しちゃって、目が冴えてるよ。シムキー、飛んでないのに空にいるって変だね。シムキーがいるから、ここは地獄かな。

 そう言ったらすごく怒られた。


★★★★★★★★★★★★★★



さらにおまけ、カッパ。(136話)なんか気に入っている。


「カッパさーん、キュウリ持ってきたよ~」

「お客だー! 今行くよ~」

 俺が沼の中に土台を作っていると、女の子の声がした。すぐ行かなきゃな。

 今は釣りをしやすいよう、桟橋を作っている途中だ。周りが森だから、木材なんてわんさかある。

 ザバッと水面に顔を出すと、軽装の若い女の子が曲がったキュウリをたくさん抱えていた。キュウリパラダイスの来訪だ……!


「私んちで町の市場に出荷してる、キュウリ。曲がったのは箱詰めしにくいの。コレ、お魚と交換できないかな?」

「できるできるよ! 今日はウナギも取れた、持ってけ。あとコイとイワナ」

「ウナギ好き~! やったあ」

 この子は前にも来てくれたなあ。村の冒険者に武器の扱いを教わって、出荷の手伝いをしているんだったな。全然戦えないと危ないからな~。

「なんだいカッパさん、女の子だと愛想がいいね」

 釣りをしている年配の男が、笑いながら茶化してくらあ。


「当たり前だろ、男に愛想良くしてどうすんだ。釣りたいっつうからコイの養殖もしてやってんだ、感謝しろってんだい」

「おーおー、ありがとよ」

「カッパさん、先生に失礼しないでね」

「ごめんよ~嬢ちゃん、まあアレで楽しんでんだよ」

 あの男がこの嬢ちゃんに剣を教えている先生らしい。槍だったかな?

 それなりの冒険者で、十分稼いだから呑気に釣りしてんだよ。今でも依頼があると、突然何日もいなくなる。


「わ、あれ……きゃあ!」

 女の子が木の枝を指でさした。気には最下層の異形の悪魔デーモンが止まってる。紫の肌で羽のある、頭のでっかいヤツだ。種類はわかんね。

「ギギャアァ!」

 奇声を上げながら、本日唯一の釣り客に飛び掛かる。男はチラッと後ろを振り向くと、釣り竿を離すこともなく座ったままだった。

 攻撃される瞬間にサッと避け、デーモンは勢いのまま沼にボチャン。

 俺もすぐに沼に飛び込み、満足に動けないでいるソイツに必殺カッパクラッシュを食らわせた。スペシャルなパンチだぜ。見せられないのが残念だ。


 簡単に倒して陸に揚げる。こんなのの死骸があったら、沼が汚れちまうから。

「え、もう倒したの? カッパさん強ーい!!!」

 拍手してくれる女の子。へへへ、めっちゃ気分いい。

「水の中でカッパと戦うのは不利なんだ。任せるのが一番」

「おうよ、任せとけ」

「カッパさんてすごく強かったんですね~」

「一人で木材を切り出して運んでるんだ、かなり力持ちだろ」

 男は俺が用意した木材が寝転がってるのを、チラリと見た。重かったよ、木。

「確かに……、こんなの動かせませんもんね」

 まさか人間は一人で運べない重さだったとは。

 俺は優秀なカッパだからな~。


「カッパさーん、ナスかオクラ、いらないー?」

 また別の女性が来たぜ。なんか重たそうにしながら運んでる。

「ナスはいる。オクラはぬるぬるするから、いらねー」

「ぬるぬる苦手なの? あら今日はお客が二人もいるのね。スイカがあるよ、みんなで食べよう」

 後からの客が提案すると、女の子と男も喜んだ。

「私もいいの? やったー!」

「どれ、ご馳走なるかな。代わりに帰りは二人を護衛するよ」


 スイカは俺の手刀で真っ二つだぜ。丸くて厚い皮の中には、真っ赤なみずみずしい果肉。うまそう。

「いいねえ、うまそうだねえ」

 ちょっとずつ俺の沼に人が集まるようになったぞ。楽しいな~。

 釣り客も、もっと増えねえかなあ。頑張って運営しねえと、うん。



★★★★★★★★★★★★★★


 完結!

 最後までご愛読頂き、ありがとうございました\(^o^)/

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地獄の侯爵と契約したので、故郷を探す旅に出ます 神泉せい @niyaz

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