午前0時のカルマン・ヴォルール

「もう!何で私って人はいつもいつも・・・こう、シュゼさんに会ってしまうのでしょう!」

納得がいかない!そういって手にしていた枕を投げる。そして、引き出しを乱暴に開けて綺麗に陳列した十字架のひとつを取り出し、先ほどへしまげたのと同じように片手で神の首と胴を別つ。

「ふぇありーている、読みたかった・・・」

だがだめだ。シュゼはどういう理屈か、ものを貸した相手に不思議なココロの魔法をかける。それは、愛だったり、恋だったり、憎悪だったり、信仰だったり様々だ。しかもそれを百パーセントの確率で行うのでなおたちがわるい。まだ、植え付けられるのが信仰や憎しみなら良い。けれど植え付けられて面倒なのが愛だとか恋だとか、どうしようもない不条理な感情。しかもシュゼは思いの矛先も自由自在と聞く。神へ信仰なら当然、シスターとして本来あるべきものなのでまだいいのだが、愛を植え付けられ、まして相手がシュゼだったりしたら・・・と想像するだけで鳥肌がたってしまう。話は変わるが、シュゼは別に泥棒ではない。ただ、その鮮やかなまでのココロの魔法が、人のココロを盗むと言うことで、人々から泥棒と呼ばれているだけだ。彼は貸しものには深紅のシール、カバー等を必ずつける。深紅はフランス語でcarminカルマン。どろぼうはvoieurヴォルール。だから彼は人知れずカルマン・ヴォルールと呼ばれている。そして、誰かにものを貸すとき、押し付けでなく相手が見たがるもの、使いたがるものを厳選してくるのだ。だから茜は彼が嫌いだ。初雪のように前触れもなく人のココロを盗む彼が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぁいいシスターと泥棒さん 雪月華@33331111 @33331111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ