異世界でもスマートフォンが万能過ぎる

シオン

第1話*異世界へ急降下




いつもの日常







いつもの朝
















それは唐突に終わりを告げる












遡ること数時間前の現代日本。

夏休み前の登校日。通学中の学生たちや通勤中の大人たちで溢れ返っている、とある駅構内。


「はよー」


片手を挙げて挨拶しながら合流する男子高校生が2人。


「うっす!駅でも告白され、学校でも告白され、相変わらずイケメンはツラいね!」


「うるせぇ。一々告白されてぶった切らなきゃならねぇこっちの身にもなれっての」


所々跳ねている天然パーマの茶髪男子高校生がからかえば、耳元が見えるか見えないかくらいのショート黒髪の男子高校生(イケメン)が鬱陶しいと言わんばかりに溜め息を吐きながら、口悪く答える。


「あれ?拓哉と雅は?」


「もうちょいしたら来るだろ。俺たちが早過ぎなんだよ」


スマートフォンを取り出し、時刻を確認しながら他の仲間を心配する茶髪の少年に、黒髪の少年(イケメン)が、これまた面倒くさいと言わんばかりの表情を浮かべながら答える。目印になりそうな柱に寄りかかりながら仲間を待つ。

少しばかりスマートフォンを弄っていると、そこに……


「あ、……いた」


小走りに駆け寄る小さな影が一つ、体格からして女子高校生だろう。黒髪イケメンが気づけば、片手を挙げて呼ぶ。


「こっち」


「おぉー!みや……」


「その呼び方はやめろ。色々問題になる」


茶髪の少年はかなり陽気で気さくなようだ。気難しい感じであった黒髪の少年も、変なあだ名で呼ぼうとした茶髪を制して、女子高校生に声をかける。


「はよ、雅」


「おっす!」


「……おはよう、達矢、悠」


先に来ていた2人が挨拶すれば、腰まで靡く黒髪ロングヘアーをポニーテールに束ねた女子高校生、雅(みやび)も笑みを浮かべて挨拶をする。

どうやら名前は、黒髪の少年が達矢(たつや)、茶髪の少年が悠(ゆう)とそれぞれ言うらしい。

そして最後に来たのは……


「皆さん、お早いご到着で」


「おっ、拓哉きたー!」


肩口で切りそろえた茶髪の男子高校生、拓哉(たくや)。

いつもの仲良し4人組が集結したのである。




彼らは幼い頃からのご近所さん。




幼稚園から今までずっと仲良しな4人組。




恋愛に発展することもなく、高校二年生になった今までずっと仲良しである。




「さて、んじゃあ行くか」


無事4人揃ったから、と達矢が先導して改札へ向かう。他の3人も後を追う。

ICカードの定期をかざして改札を通過。学校の最寄り駅を目指して電車に乗り込む。


揺られること30分。

次第に乗客は4人と同じ制服姿の生徒が増えてきて、あとは大人たちがちょくちょくいるくらいな電車内。

降り口とは逆側のドア付近で4人は他愛もない談笑をしていれば……


「ねぇ、あれ!」


「あっ!朝霧(あさぎり)先輩じゃん!きゃー!、」


「隣の子たち誰?」


「夕凪(ゆうなぎ)先輩、真昼(まひる)先輩、夜羽(よるは)先輩。みんな同じクラスで、幼馴染みだってさ」


「仲良しなんだね〜、いいなぁ」


逹矢には黄色い悲鳴、同性からは嫉妬の声がそれぞれ届く。


「あの4人いつも一緒だよなぁ」


「あいつら仲良くて羨ましいわ」


「朝霧だけ別格だけどな」


「真昼も夕凪も夜羽もスゲーけど、朝霧はもっとだもんなぁ……」



そして雅には……



「いいよねー、夜羽先輩って。ブスのくせに無条件でイケメンと一緒に登校出来るとかさ」


「逆ハーだけど幼馴染みだからってだけだよね〜」


「あの女マジないわ〜」


女性ならば同性たる女性には辛辣なわけで、わざと聞こえるように大声で話す女子生徒たちの会話を聞けば表情は次第に暗くなっていく。


「おや?ブスの皆様が何か吠えてらっしゃいますよ?」


「自分の方がブサイクだから構ってもらえないのに気付いてないだけじゃね?」


それに気づいたのか、拓哉と悠が大きな声で話す。中身は先程から雅に対して悪口を言っている女子グループに対してであり、当然彼女らはムッとするし、雅の表情の暗さも増すわけで。

更にはチッ、と近くから舌打ちが聞こえてきて、ピクリと思わず肩を震わせる。


(こわい)


「雅」


恐怖を感じていたら、いつもより優しい声音で名前を呼ばれた。視線を上に向ければ、達矢がいる。


「……お前可愛いから気にすんな」


「達矢……?」


聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟けば、雅が問い返すと同時に両耳を塞ぐ。悪口がほぼシャットアウトされる。達矢の顔が赤くなったように見えたが、それよりも少しだけ、気持ちが和らいだ気がした。


朝のいつもの悪口合戦終了後。

最寄駅に到着したので降車して、改札を潜る。雅の両耳も、もう開放されていた。

彼らが通う学校の校門前。


「朝っぱらから良くやるよなあいつら」


「ほんと、悪口合戦疲れるなぁ……」


達矢と悠がやれやれと言わんばかりに溜め息を吐く。一方拓哉は雅の体調を心配していた。


「大丈夫ですか?雅。顔色が……」


「……うん、だいじょうぶ」


気丈に振る舞う雅。拓哉、悠の2人は心配そうに見つめ、達矢は何か考え事をしている。




そんな4人が学校の校門を潜った瞬間だった。


「うわぁ!」


「きゃっ……!」


不意に感じた浮遊感と、彼らの足元にはアニメで見たような何かの魔法陣。

雅は慌ててスカートを抑え下着を隠し、達矢たちも浮遊感に戸惑いを隠せないでいた。







そして







魔法陣が輝き出して











4人は急降下








「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」










魔法陣に吸い込まれた4人は、この世界から消えたのであった。










*つづく

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