第3話 家族との思い出を回想する。
「本当に良くできている身体だなあ」義文は自分の体を見てそう思った。手を触ってみると適度な弾力を感じる。人間らしい身体だ。操作性に違和感はない。まさに自分らしい身体だと感じている。酒のせいか尿意を感じた。
「よし初めてのトイレに行くか。」義文は男子トイレに向かった。
小便器に立ち排尿する。現世の時と操作性は大差なかった。
「ふう。本当に俺は人造人間なのか。この体を作った人間はとても凄いやつだな。」
部屋に戻って窓から外を眺める。外では雪がちらついている。
「ああ。孫に会いてえなあ。」ふと家族のことを思い出した。
蓮太郎は素直な孫じゃった。娘の綾香が実家に戻ってくるまでは,新幹線で帰省する度に成長していて愛くるしかった。
「おじいちゃん。肩車して!」幼少期の蓮太郎は甘えてきた。
「仕方ないのお。ほれ!」肩に感じる孫の温もりと重みに幸せを感じた。
小学生になってから綾香達は戻ってきた。蓮太郎は剣道を始めた。そこで相手をしてほしいと言われた。
「おじいちゃん。僕に稽古をつけてよ。」
「そうか。蓮太郎。お前も強くなりたいんだな。よし,じゃあまずは言葉遣いから正そう。」
「稽古をつけてください。おじい様。」
「フッ…いいだろう。お前を最高の剣士に育ててやる。」
「おじいちゃん。なんで笑ったの?」
「気にするな。メイドみたいで可愛かったんだよ。」
「さあ来い。蓮太郎。」道着に身を包み,竹刀を構える。
「おじいちゃん。行くよ。」
それからは何度も手合わせをした。年々強くなる蓮太郎。そして年々衰える自分の体力。ついに小学5年生の蓮太郎に負けてしまった。
「強くなったな。蓮太郎。ワシは負けた。」
「でもおじいちゃんは年の割にはよく頑張ったよ。」
「そういえばもうワシもだいぶ年なんだな。蓮太郎これからも頑張れよ」
体の衰えを感じてから一気に生きる気力が失われてきた。これが老いを実感するときなのかと。自分はまだ若いと思い込む病によって老化がより苦しく感じるのだ。だがもう年だと思えばその通りに老化が進んでいく。どちらも苦しいものである。
そして蓮太郎が小学6年生に進級した後の記憶がない。おそらくそのあたりで死んだのだろう。
「懐かしいな…。千代子。義武。綾香。蓮太郎。今の俺を受け入れてくれるだろうか。」なんだか知れないが涙が出てきた。
「こんな機能までそろっているのか。すごいなあ。」
「おっと。今何時だ。22:00か。約束の時間じゃねえか。」
エレベータに乗って風呂のある階に向かった。
「よう。こんなところで会うとはな。」
見覚えのある顔に会った。
警察の時代によく関わったやつである。庶民であれば関わることもなかっただろう。
それなりに嫌な思い出はある。
「お前は笠沼会の滝下だな。肉体を再建してどうするつもりだ。」
「いかにも笠沼会6代目総長滝下康男だ。もうあの世界からは身を引いた。蘇ってまで,罪を犯すほどの畜生じゃねえ。俺はな。」
「そうか。お前の言葉信じるぜ。もはや警官であるわけでもないしな。」
結局,長谷堂と滝下と3人で大浴場に入ることになった。
聖赤翁-Santa Claus- 恋住花乃 @Unusually_novel
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