星降るように涙が伝って

ユウガオ

第1話



       切ないほどに晴れた空


 おじちゃんの愛は古臭くて不器用だけど確かな愛でした。

天気の良い早朝、私はいつも通り6:30に

目が覚めた。

一件の不在着信。

午前6:15こんな早い時間に

母から電話が来ていた。

私はその電話がどんな内容なのか

大体の見当はついていた。

「おばあちゃんが死んだ」

きっとこの話である。

信じたくはないが先週おばあちゃんは

買い物に行こうと家を出てから

15時間ほど家に帰って来なかった。

少し認知症気味のおばあちゃんは

道に迷ってしまい

帰って来られなくなってしまった。

発見されたのは行方不明になってから

おそらく14~15時間後のことだった。

見つかった時は道路の隅に倒れていて

体の至る所に擦り傷や切り傷があった。

そのまま救急搬送され一命をとりとめた。

10月の出来事で季節も秋の迎えている

東北の朝晩はとても冷え込んでいた。

 病院に搬送された日

私は急いでお父さんと病院に向かった。

そこに寝ていたおばあちゃんは

私の知っているおばあちゃんではなかった。

でも、いつものように手は暖かかった。

私は、その後にもう一度日を改めて

お見舞いに向かったが

まだ目は覚めていなかった。

しかし、その数日後、目が開いたと

たくさんの孫と子どもたちに囲まれた

おばあちゃんの写真が母から送られてきた。

「良かった」と心の底から感じた。

私はその期間に仕事のイベント役員を

務めていた為少し忙しく

なかなかお見舞いに行くことができなかった。

 そして母から電話のあった日に戻る。

不在着信があったので折り返して電話をすると

すぐに母が電話に出た。

「あーもしもし?おはよ~う。

昨日の23時ころにおばあちゃんが

亡くなりました」

母はいつもの口調で話していたが娘には分かる。

だんだんと微かだが言葉が震えていることが。

「おはよ、え、そうなんだ、そんな…」

私はうまく言葉が出てこなかった。

母方のおばあちゃんで私は生まれた時から

20年間おばあちゃんに可愛がってもらっていた。母は兄弟の末っ子で可愛いように

末っ子の娘となると

もう爆裂に可愛かったのだろう。

母は4人兄弟で末っ子。

兄が一人と姉が二人いる。

その分、私のいとこも多く

自分の兄弟を合わせると11人もいる。

みんな仲良しで毎年

年末年始はおばあちゃんの家で

親戚が勢揃いする。

みんなでおいしい料理を食べて

お年玉をもらって、元旦の朝には

お餅を食べて東照宮に初詣をしに行く。

みんなで、おばあちゃんの家に

戻りトランプをしたり人生ゲームをしたり

お正月の特別番組を見たり

今年もよろしくお願いします。と

各家族に改めて挨拶をして

各々の家に帰宅するのが私たち親戚の

年末年始の過ごし方である。

 年末年始以外にも私は家が近いため

よくおばあちゃんの家に遊びに行っていた。

おばあちゃんとおじいちゃんの座る位置は

いつも決まっていて、おばあちゃんは 私が家に行くといつも笑顔で「よく来たね~」と

笑顔で迎えてくれる。

その後におじいちゃんも「ここさおいで」と

自分の隣を指さしてふかふかのソファーに

案内してくれる。

二人は私の話を聞いて大笑いしてくれる。

おばあちゃんはいつもおじいちゃんを立てて

「ばあさん余計なことしなくていいから」と

おじいちゃんに言われても

「私はおじいさんが居るだけで幸せなんです」と

おじいちゃんが居ない所でニコッと

笑って話すおばあちゃんを

何度も素敵な人だと感じていた。

おじいちゃんは照屋なのか全く何も言わない。

むしろちょっと貶しているくらい。

でも、初詣におばあちゃんが行かない分

おばあちゃんの好きな屋台の綿あめや

焼きトウモロコシを買って帰ってあげる。

「はい、ばあさん」って。

実はおばあちゃんのことが大好きで

おじいちゃんの素敵さもたくさん知っている。

 おばあちゃんが救急搬送された日

おじいちゃんは顔がぐちゃぐちゃになるまで

泣いていた。

まだ眠っている日も、目を覚ました日も

病院に行ける手段があれば

欠かさずお見舞いに行っていた。

おばあちゃんのお葬式の日、火葬前

最後の対面の時。

親族全員に囲まれて、おばあちゃんの

周りには綺麗なお花が並べられ

みんな今までの感謝を伝えた。

今でも忘れられないくらい冷たくなった

おばあちゃん。

冷たい肌でもおばあちゃんの心の温かさを

どこかに感じ、私は人生で一番泣いた。

生まれた瞬間の産声を上げた赤ん坊のように。

おじいちゃんも私と同じくらい

それ以上に泣いた。

長年連れ添った最愛の相手が先に

逝ってしまったのだから当然だが

こんなおじいちゃんを初めて見た。

愛してる気持ちを人の前で言葉にして

手を握って頭を撫でて。

「ありがとうね、だいすきだよ

ゆっくり休んでね」

そう声をかけるおじいちゃんの姿は

愛おしくも切なすぎる別れだった。

斎場に向かう車で

私は今日初めて空を見上げた。

その空は切ないくらいに

澄んでいて綺麗な青空だった。


おばあちゃんの人柄が

おじいちゃんとの今までの思い出が

空に写って見えるような気がした。

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星降るように涙が伝って ユウガオ @chiiiiiba

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