第6章 考えることを放棄した者は、神に祈り始める
その日の東京総合国際病院は、やけに救患の多い日だった。目まぐるしく行き交う看護師に医師……その中に、ある一人の医師がいないことに誰も気づかなかった。それゆえに、それの発見が遅れた。
それが発見されたのは、午前11時半を過ぎたころ……病院の一角、医局の中だった。
「悪い、少し遅れた。で、状況は?」
少し遅れて到着した米村。額には汗が光っており、息も上がっている。そんなこともお構いなしに、現場の情報を聞き取ろうとしていた。
「あ、お疲れ様です。ええと、第一発見者は医局秘書で、職員の面接をやる予定だったのが全然部屋に来なかったとかで、呼びに行ったそうです。そこで遺体を発見したと」
一人の警察官が米村の質問に答えた。まず、百聞は一見に如かず、そう考えた米村は、息を整えて現場へと乗り込んだ。
「っ……!?」
それは、異様な光景だった。形容する言葉も見つからないほどに、なにかアート作品かのように、遺体はそこにあった。室内に荒らされた形跡はなく、
米村は、また少し呼吸を整えその遺体に向き合おうとした。
しかし、背後から聞きなれた声がした。しかも、先ほどまで会話していた男の声も混ざっている。
(まさか……!?)
慌てて振り返る米村、そして、目の前には、高島 春来と、宮尾 藤花、岬 千弦、安藤 胡桃、そして何故か、森谷 亨の姿があった。
それは、今から10分ほど前のこと。東京総合国際病院の受付で、宮尾 藤花は友人の到着を待ちわびていた。スマホを片手に、同じところを行ったり来たりしている。数人の病院スタッフが、チラチラと彼女の様子を気にしていた。
そんな彼女に近寄ってくる人影が、二つ。それの存在に気付いた彼女は、二人に声を掛けた。
「あ、遅いハル! ちーちゃんも!」
ぷくっと頬を膨らませる宮尾。到着したのは、俺と岬だった。急な呼び出しにこれだけの早さで応えたのだから、感謝くらいしてくれたっていいのに、そう俺は思った。
俺は、米村が席を立ったすぐ後に、宮尾からの連絡を受け取った。東京総合国際病院で何かがあった、そう聞いたときには、死体を見たあの時の恐怖感よりも、不思議な高揚感に駆られていた。事件は連続している、そう議論していた最中での出来事だ、行かないという選択肢はなかった。
「もう、いつもより早く付いたと思うんだけどな!」
息を切らせながら岬が言う。岬と俺は、病院の代々木駅付近で会った。そして、一緒に走ってここまできたのだった。
いつも遅刻してることが分かっているなら普段から早く来いよ、そう突っ込もうとしたが、小さな影が近づいてくる様子が見えた。あれは、どうやら胡桃だ。しかし、容姿に似合わないハードボイルドな衣装……おそらく、探偵のイメージでこれを着ているのだろうが、とても似合っていない。
「あ、す、すみません、ちょっと迷ってしまって」
胡桃も息を切らせている。胡桃に声を掛けようとした宮尾も、彼女の服装に絶句しているようだった。
しかし、そんなことはいいとして。急に誘われても、全員がこれだけ早く集まれるなんて偶然なのだろうか? 俺のように、何か調べていたのかもしれない。それはそうと、だ。
「はあ……、で、どこで騒ぎになってるんだ? 警察もいないみたいだし」
俺は辺りを見渡した。と同時に岬、胡桃もキョロキョロと見渡す。しかし特に変わったところはなさそうだった。むしろ、こんなところで待ち合わせしているようにしか見えない俺らが、周りからしたら
「ううん、ここじゃない。もっと奥の方だよ」
宮尾は、廊下の奥を指さした。奥、というと病室とかだろうか。病室で騒ぎ、といったら急変とか、暴力とかだろうか……
「とにかく、向こうに行こう! 話はそれからだよ!」
意気
しばらく廊下を歩くと、確かに人だかりができていた。そして、角の部屋の前には警察がいるように見えた。そして、一瞬だが米村の姿も見えた。この辺の道は混雑するので、車で来ると余計に時間がかかる。だからほとんど同時のタイミングで、俺と米村はここに着いたのだろう。
「あ、米村さん」
胡桃も、その姿を見つけたようで、少しほっとしたような笑みを浮かべている。こうしていると、本当に元アイドルだったんだな、ということがよくわかる。何しろ、笑った時の輝きが違う。
「でも、規制されているし入れないよね? どうしようか」
岬がこちらに振り返る。確かに
考えがなかなか及ばないでいると、前から白衣の男が歩いてきた。警察官が立っていることなど全く気にもしていない様子で、スタスタと歩いている。容姿は整っているが、変わった人なんだろうな、というのがすぐに分かった。そして、その男はそのまま俺たちの横を通り過ぎようとしていた。
「こんにちは……」
何を思ったか、胡桃はその男に挨拶をした。不意の声掛けに、その男の目が胡桃を捉える。その瞬間、その男は立ち止まった。部外者だと言われるのだろうか、そんな嫌な予感がした。だが……
「も、も、もしかして、湊 花南ちゃん!?」
その男は大きな声を上げた。規制線付近で
「は、はい、でももう引退して……」
胡桃は驚きながらも、丁寧に対応していた。今の世で活動していたのならば、彼女は神対応として知られたことだろう。それくらいに親切な応対をしている。
「いやーまさかこんなところで! あっサイン、いや、写真を、待てよ、どっちも貰いたい……あ、ああ! サインペンがないじゃないか!」
わたわたと一人コントを続ける男。胸のネームプレートには、脳神経内科、森谷 亨、とある。変わっているとは思ったが、脳神経専門か、なるほど。
その様子に、宮尾、岬はクスクスと笑っている。胡桃も堪えきれなくなった様子で、プルプルと震え、顔は赤くなっている。全く緊張感のなくなってしまった三人だったが、俺はどうにかして、あの奥に入れないか考えていた。
ふと、俺の頭に妙案が浮かんだ。この男、森谷は医者だ。つまりここの職員。そして規制線の先、案内表示によれば、あそこは医局……そこは、医者たちのデスクが揃う場所だ。ということは、だ。
「なあ、この男に奥へ入る許可をもらえないかな?」
こそっと胡桃に耳打ちする。胡桃は、最初は何を言っているのか理解ができなかったようだが、案内表示を見てピンと来たようだ。コクリと頷く胡桃。
「すみません、後でサインは上げますけど、あの奥に私たちを案内してくれませんか? お願いします」
深く頭を下げる胡桃。俺たちもそれに続く。森谷は、コミカルな動きを止め、何か思案している。やはりダメだろうか、そんな空気が流れた。
「ん? 良いよ、ペンもそこにあるしね、来てくれるなら有難いよ」
すんなりOKをした森谷、そして徐に振り返り、じゃあついてきて、と言って歩き出した。慌てて俺たちは付いていく。
医局の前まで来ると、警察官がこちらに話しかけてきた。
「すみません、今は現場検証中です。なので、しばらくは……」
警察官の言葉が聞こえていないかのように、そのまま入っていく森谷。本当にサインを貰う以外に頭にないのかもしれない、そんな勢いで歩いている。一瞬だけポカンとした俺たちだったが、仕方なく彼に続き中に入った。
「お、おい君たち!?」
背後から警察官の制止の声が聞こえた。しかし森谷は止まらない。森谷の横から奥を覗くと、米村がある部屋の中に入っていくのが見えた。内科医長室……そこに何かがあるのだと思われた。
「……うん? なんだ?」
森谷は、今頃になってようやく、医局内に警察官がいることに気づいたようだった。そして、新たに興味を示す対象となったのだろうか、その部屋へと進んでいく。
「待ちなさい! 止まって!」
後ろから警察官が駆け付けてきた。内科医長室の前にいた警察官も、騒ぎに気付いたようでこちらを警戒している。しかし、そんなことを森谷は気にしていない。
「なんだよ、俺はここの医者だよ。医局にいて何が悪い」
「いや今規制してるから! 関係者以外は入らないで!」
「俺は関係者だろうが!」
傍から見ると、真面目に仕事をしている警察官が可哀そうに見えた。結局、理不尽な物言いをつけ、内科医長室までたどり着いてしまった。そこで、米村と俺たちは再会したのだった。
「君たち……高島くんまで……なんでここに……」
静かに怒っている様子の米村だが、それよりも、そこに横たわった、それが先に目に映った。人が倒れている。
「え……」
それは、死体だった。
しかも普通の死体ではない、
点滴も、赤、黄、紫……といったカラフルなものが並んでいる。服は、入院患者が着るような、質素な浴衣。眼球は上を向いており、口はだらんと開いている。
「おい、見るな」
目の前に立ちふさがる米村。この前のように気絶したら厄介ごとが増えてしまう、そういう気持ちだったのか、それとも優しさからなのか。しかし、もうバッチリ見てしまっているので、時は既に遅かった。
しかし、そんな光景を目の当たりにしたというのに、不思議と吐き気や震えは出てこなかった。宮尾たちも、ただ
しばらく無言になる俺たちだったが、森谷は、それが知っている人物だということに気づいたようだった。
「え、まさか渡辺先生……!?」
さすがに驚きの表情を隠せない森谷、そして、その森谷に米村は話し始めた。心なしか、いつもよりも無表情に見えた。
「この前はどうも。ここに入ってきた、しかも彼らを連れてきたことについては、あとで詳しく聞きます。ただ、一応聞いておきますが、被害者……渡辺 淳一先生は、誰かから恨みを買っていたりしていましたか?」
森谷が、他の医師とコミュニケーションを取っていなかったことは俺にも分かることだった。それでも聞くということは、今のところ情報が全くないのだろう。
「知らないけど、あるとしたら患者とか遺族とかじゃないか? 後ろ暗いことをしていた、って有名な先生だったじゃないか」
「後ろ暗いこと?」
俺たちがいることをすっかり忘れた様子で、米村は聞き返した。森谷に全く期待していなかったのだろう、いつもの無表情が崩れている。
しかし、それは俺も同じだった。つまり森谷ですら知っているくらい、真っ黒で有名な人物だった、そういう意味を
「ありましたよね、10年くらい前、臨床試験していた15人の患者が同時に死んだってやつ。あれをやっていた病院がここで、彼はその治験担当医ですよ」
10年前の事件、15人の死者、臨床試験。俺はそのころ、ちょうど10歳か11歳だっただろうか、そのころのニュースなんて記憶にはないけれど、過去の特集とかで、その事件については何度かテレビで放映されていた。
確か、新薬の臨床試験中に15人の被験者が同時に亡くなって、開発した会社が倒産した、とかいう話だった。それを担当していたのが、この渡辺という人だった。
「それは本当ですか?」
「本当ですよ、俺はその頃ここにはいなかったんですが、以前、先生からその15人の脳の画像を見せてもらいましてね。とても興味深かったですよ」
医局の一角に移動し、PCの画面を開きながら森谷は言った。いい笑顔だ、とても死体を目の前にしたとは思えない。しかし、
「はあ、それで今回の事件は、その被験者の遺族たちが引き起こしたと?」
さすがに
「いや、ここからは俺の私見ということにして下さい。いいですか、この前見せていただいた画像と、その15人の画像、これですけど、特徴が一致しているんですよ。何度も確認したので間違いないですね、脳の全く同じ部分に同じような変化がありました」
「なっ……!?」
その言葉に米村は
「安藤と奥村の画像と……? それはつまり、どういうことだ?」
メモ帳を取り出し、何か書き込んでいる米村。安藤、と言われたとき、胡桃の肩が小さく震えた。安藤、奥村……つまり、この一連の事件の……? そこでようやく、米村は俺たちの存在を思い出したようだった。
「……あ、君たち、まだいたのか……」
書き込む手が止まった。彼にしては大失態だったろう、事件とは無関係な人に捜査情報を漏らしてしまったのだから。もちろん、胡桃は無関係という訳ではないが、知らせる意味のない情報であったし、何より彼女は私立探偵だ。余計に探りを入れてくるだろう。
「つまり、一連の事件と関係性があるってこと、ですか?」
俺はすかさず質問をした。しかし、俺の声は届いていない……聞こうとしていないようにも見えたが、彼の反応はなかった。
「……よし、今日は一旦帰ってくれ、ここに立ち入ったことは不問にする、それでいいね?」
歯切れの悪い米村。バツが悪そうに頭をグシャグシャと掻いている。すると、宮尾が急に話し出した。まるで、今思い出したかのように。
「あの、ちょっといいですか?」
今度はなんだ、と言わんばかりに、疲れた目を宮尾に向ける米村。俺たちも視線を宮尾に送った。
「私、ここから立ち去っていく怪しい人を見ました」
突然の告白に、一同は騒然とした。米村が困惑の表情を浮かべている。俺たちも、その言葉の意味が分からなかった。何をいきなり言い出すんだ宮尾は。
「私、ちょうどこの、医局? この入り口が見えるところに座っていたんです。三時間くらい前、だったかな。スマホをいじってたら、急に寒気がして、こっちの方を見てみたんです」
宮尾は目を
「うう、まだちょっと寒気が……あのね、えっと、女の人がそこの前に立ってたんです。髪が長くて、長いコートを着た女の人が。それで、こっちをじっと見てたんです。それで怖くなって、目を離したら、いなくなってたんです。ね、怪しくないですか?」
宮尾はそこまで言うと、また少し震えた。よっぽど怖い思いをしたのだろうか、宮尾がこんなに怯えるところを見たことがなかった。
「患者さんじゃなくて? 精神病の人だったらあるかもしれないよ?」
岬が、よしよしと宮尾の肩を抱きながら持論を述べた。確かに精神疾患のある人なら、そういう出で立ちでもおかしくはないけど、辻褄が合わない。
「いえ、この病院には精神科の病棟がありますし、隔離されていたはずです。それに、わざわざ医局の前に来ることはないと思うのですが……」
胡桃が反論をした。もちろん外来の患者が、ということもあるが、状況的に考えにくいだろう。それに真夏だ。幾ら精神疾患とはいえ、ロングコートを着てここまで来れるとは考えにくい。病院の中で着替えたのかもしれないけど、それは意味が分からない。
「……監視カメラとかはないんですか?」
俺は米村に質問をした。彼は、何か考えているようだったが、パシリと頬を叩いた。
「ああもう分かったよ。こうなれば、毒食わば皿までだ。おい、監視カメラを当たってくれ」
米村は手近にいた警察官、おそらく後輩だろう、彼に監視カメラの映像を入手してくるように頼んだ。
「実は、既に手を回してあったのか、映像は既に入手しています。でも、良いんですか? 一般人に見せるものじゃないと思いますけど……」
USBを差し出す警察官だが、顔色は浮かない。それはそうだろう、プライバシーの問題だとか、諸々が詰まった映像だ、そう易々と見せられるものではない。それは、米村も重々承知のはずだった。
しかし、また随分と手際の良い警察官だ。監視カメラを見る、という流れを予測していたのだろうか。
「……分かっている、しかし今は情報が足りない。それに、連続性が疑われる以上はやむを得まい」
そしてUSBを受け取った米村は、自身のPCを立ち上げ始めた。起動中の画面、それが嫌に長く、そして重く感じた。すると、米村はこちらに向き直った。彼の顔は、明らかに
「で、監視カメラの映像を確認したら、今度こそ黙って帰ってくれ。頼む」
頭を下げる米村。俺たちは互いに顔を見合わせ、それに了承した。これ以上、彼に負担をかけてはいけないし、それに、ずっとこんな現場に居ては精神的に良くない。
「俺はここの医者なんですけどね」
「あんたには言ってない」
「三時間ほど前……ということは、8時30分頃か。見せるのはここからだけだ、分かったな」
早送りで映像を再生した。ほとんど人の往来がない様子で、映っているのは廊下だけ。そんな映像がしばらく続いたが、異変はすぐに訪れた。
「……うん?」
全員がその異変に気付いた。ザザッと映像が乱れている。次第に、正常に映る時間の方が短くなっていく。時刻は8時42分、砂嵐の多さに目が悲鳴を上げ始めた。
「……なんだ、これは。故障か?」
「目が痛い……」
米村は、その映像を凝視している。反対に、砂嵐を延々と見せつけられて、岬は目を背けていた。そして、そんな映像がしばらく続いた後だった。
一瞬、鮮明に映像が映し出されたのだ。時間が止まったかの様に、全員が硬直した。
そして、その映像には、長い髪のロングコートを着た女性が、俯き加減で立っていた。しかも、その手には管のようなものを携えていた。
「あ、そうだこの人だよ!」
宮尾が声を上げる。この人か、確かに宮尾の言っていた特徴と合致するし、何より手に持っているのは、もしかしてさっき、死体に刺さっていたあの……。
「っ……!?」
どっと吐き気が押し寄せてくる。まさか、この女が犯人、なのか? 思考を巡らせていたその時、映像の女が監視カメラの方向を向いた。長い髪に覆われ、はっきりと顔は見えなかった。しかし、監視カメラになにか言葉を投げかけている、そんな様子だった。
「すまん、少し巻き戻すぞ。」
米村は、いつもに増して真剣な表情で映像を巻き戻す。そして、女の口元を拡大した。引きつったような、奇妙な笑顔がアップされた。そして、再生ボタンをクリックした。
も う す ぐ だ あ い に い く か ら ね
『
言葉の意味を全く理解できない俺たち。森谷も、いつの間にか脳の画像を閉じ、映像を真剣に見ていた。そして、映像はまた途切れ出し、一瞬の砂嵐の後、誰もいない廊下を映し出していた。
「これは……なんだ?」
「おい、どうなっている!?」
苛立ちながら後輩警察官を呼ぶ米村。彼は慌てて、すぐにデータを調べ始めたが、彼の口から耳を疑うような言葉が返ってきた。
「す、すみません。このファイルに映像は入っていません……」
「なんだって?」
すぐにPCを奪い返し、ファイルの詳細を表示する。確かに0 KB……つまり、何もないという情報が表示されていた。静まり返る一同、そして思い返したように、米村はこちらを見て言った。
「……一応、約束だっただろう。出口まで誰か一緒に付き添わせる。だから、帰りなさい」
「え、そ、それは……」
「帰ってくれ、頼むから」
絞り出したような米村の声に、俺たちは反論することもなく従った。この事件は、何かおかしなものが関わっている。そう思うと、さっさと身を引く方が無難だ、そう感じたのだった。
14時過ぎ、暑い日差しがまだ照り付ける中、病院の出入り口に戻った俺たちは、今後について話し合った。背後では、応援の警察官が慌ただしくしている。
「どうしようか、もう、事件を追うのはやめようか」
意外にも、この言葉を発したのは岬だった。宮尾の気が済むまで見守る、そういうスタンスだった彼女だったが、さすがに限界があったのかもしれない。それだけ、あの監視カメラの映像はインパクトがあった。あれは、恐怖そのものだった。俺は、そんな彼女の言葉に同意するかのように頷いた。
「でも、今回の事件が一連のものと関連している、というのは分からないんじゃないですか? もし無関係なら、他に犯人がいることも考えられると思います」
胡桃はそう話した。確かに、渡辺、といったか、あの死体については今さっき見付かったばかりで、何の情報も得られていない。でも、事件の異常性、これははっきりしている。関与していないと考える方が、無理がある。
「私は……」
宮尾が何か言いかけている。しかし、俺はその言葉を遮るように話した。
「もう充分なんじゃないか、俺たちはそもそも無関係なんだ。現場にたまたま居合わせただけだったし、これ以上は、身の安全が保障できない」
冷静に
「私は、皆さんが事件を追わないという選択をしても、特に疑問には思いません。むしろ正常だと思います」
胡桃が俺の意見に同調した。皆さんが、ということは、自分はまだ事件を追うということだろう。姉が殺されたのだ、そう簡単に引き下がれない思いは理解できた。家族が殺される、というのがどれほど苦しいことか、俺にはよく分かる。
じっと宮尾を見つめる。何か迷っているような表情だ、しかし、どこか俺たちの話とはまた違うことで悩んでいる、そんな様子だった。
「とりあえず、さ、今日はこのくらいにしようよ。さっきの事件も、警察が今までの事件と関係があるって言ったら、また考えよう」
岬は、とにかく早くこの空気を打破したいようだった。胡桃も同じように頷いている。
「うん、そうだね、今日はここまで。またみんなで話し合えたら、その時に考えようかな……」
元気のない宮尾の返答に、目を見合わせる俺と岬。この前まであんなにやる気満々だったのに、こうまで変わるものなのだろうか。そのまま、とぼとぼと歩き出す宮尾。仕方がない、少し時間を置いたら、また元気な宮尾に戻るだろう。そう考え、俺は宮尾のあとに続いた。
これで俺たちは事件を追うことはなくなった。事件を追わなければ、恐怖することもない……それは、大きな勘違いだったことを、いずれ思い知ることとなった。
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