心中お察ししますが、だからどうしたっていうの?

@kitataku

第1話 失敗

「・・・またやってしまっただ」


とある島国、周りには海以外何も見えない場所。時間にして早朝。遠くの島は小粒ほどにしか見えない。100ヘクタールほどの丘の上にぽつりと鮮やかな色の家が建っている。

その鮮やかな色の家屋の家主が書斎に1人いる。部屋の中は彼が描いたのだろうか、辺り一面この丘から見た絵が360度見渡すかぎり精巧に書かれている。家の中にいるにも関わらず外にいるかのように思えるその部屋で独り言を言っている。


「何回目だろう・・・”シート“は・・・んん?あそこだった。あっただ」


オレンジ色の光を照らしながらぶつぶつとひとりごちてる男、彼はゴツい手を伸ばして”シート“と言った分厚くて黒い30cmほどの長方形を掴む。

齢は50ぐらいだろうか、薄くなった頭を掻きながら“シート”に向かって呼びかける。

「わし、トール。声帯認証よろしく。最終履歴に繋げてくれ。」


“シート”は薄ら光と赤、青と順番に光ってポンポンと最終履歴に残っているアカウントを引っ張り出してきた。


言い終わるとシートを机に放り投げる。

「ああ、ただの夢であってほしい。」頭を抱えて薄くなった頭をさらに掻きむしる。


“シート”の産みの親、タール・バイタンは言った。

「もし、8年後の世界が未来の自然な姿なら、私はそれを受け入れる。ただ、シートを悪用するものが現れる時に、自制するプログラムを組んだ。キールだ。

自制プログラムのキールは、恒久な世界で永続的に動き続ける。1人につき1つの島でしか生きられないなんて寂しい世界にはしないでくれ。私たちは1人では決して生きられないのだから。」


ーーーとある大学の講義にてーーー


「・・・つまりこの世界は昔は一つの大陸だった。そして15年ほど前に1人あたり100ヘクタールの面積が必要になるまでは分断されていなかった。君たちはそのヘッドセットとシートがないと、この唯一人口8000人の島には居られないのだ」


全員がサングラスのような物を身につけている中、講堂のような場所で机と椅子が10×10個の縦横計100個ほどがならんでいる。

その前には円筒状の高さ2mはあろう筒が生徒と先生の間に立っている。

初めて見る人にとってなんとも特殊な空間であろう。


生徒と思わしき子達がみじろぎもせずに先生の声を聞いているように見える。


が・・・よく見ると動いていない。

もう”入っている“のか。あーあ、またどやされる。


席につくや否や、ピタリと動きが止まる。


「遅いぞ、アンソン。次回の定期例会の準備係を申しつける。“心力-しんりょく-”の低下につながる」


さっきとまるで風景が変わらない教室。

かと思えば生徒たちと先生がやんややんやと動いてる。


そう、ここは”心世界“誰もが一度は思い描いたことのある世界。


人類はついにここまで行ったのだ。人と人の精神を繋いで会話することに成功した。

同時に今までの現代社会はオワリを告げたのだ。


アンソンはこの世界のルールを聞いた時に真っ先にドラゴ◯ボー◯の「精神と時の部屋」を思い浮かべた。

なぜならこの心世界は、今アンソンの本体がある生身の身体と時間の進み方が違うからだ。


この基礎理論は大昔にアインシュタインという人が作ったらしいがテストには出ないので覚えていない。

詳しいやり方は分からないが、大雑把にいうと、どうやら光の粒子化した精神エネルギーを組み替えてこの仮想エリアに放出しているようだ。


ただ、この世界に居るからと言って、自分や他の生徒、先生達が死んでいるというわけではない。あくまでエネルギーの重きは心世界にあるということを心力学の講師が言っていた。


どれぐらい歳の進み方が違うかというと、生身が1秒経つ間に10年もの年月が心世界では経つようだ。つまり、ちょっとした誤差で物凄い差を生む。

例えば子供が心世界に入ってしまうと、10年は成長できるようになっている。

なので、成長を加速させるための装置として大学などで採用されている。


子が親を簡単に追い越すこの装置。

この問題を解決するために、とりあえずの現状維持化を当時の国は決断した。

「1人1島計画」だ。そのままのネーミングセンスで政府のセンスのなさが窺える。



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