グループ分け
『――皆さん、おはようございます。これより、株式会社スノーフォックスのインターンシップを始めたいと思います。これから四日間、プログラム全体の進行を務めます、人事部採用担当の
定刻通りに始まったインターンシップ。最初のプログラムは、参加する学生たちの自己紹介となる。
ESと面接での審査を通過した総勢50名の学生たち。まずは全員に向けて一言二言の挨拶をして、その後はグループごとでより親交を深めるための時間が設けられた。
静夜たちのGグループは全部で6人。男女3人ずつのバランスの取れた構成だ。
司会の鮎川がグループワークの開始を宣言すると会議室は学生たちの喧騒に包まれる。
テーブルを囲んで向かい合ったGグループは、集まった50人の学生の中で唯一スーツを着ている男子学生が真っ先に手を挙げたので、彼から順に自己紹介をしていくことになった。
「大阪大学三回生の
良く言えば真面目で隙が無い、悪く言えば少し堅苦しい自己紹介だった。
「おいおい、ちょっと固くないか? もっとフランクに行こうぜ! 別にこれは試験でも何でもないんだからさ!」
そう言って内田の挨拶を明るく笑い飛ばしたのは、隣に座るもう一人の男子学生だ。一見した印象では、どことなく
「俺は青山学院大学三年、
勢いに任せた、元気の有り余る自己紹介。どうやら思った以上に康介に近しい人種のようだ。交友関係も広そうだし、気さくでムードメイカー的な役割が似合いそうでもある。
「それじゃあ次の人、どうぞ!」
そしていつの間にか、グループ内での主導権を自然と島崎が握った。
左隣に座る女子学生は軽く会釈をしてから淀みなく話し始める。
「
流れる黒髪にすらりとした体躯。黒縁の眼鏡がよく似合う知的な印象の女子学生の口から怪異伝承やら超常的な力なんて言葉が出て来たのは意外だったが、本人は至極真面目なつもりで言っている。
「ハンッ! この世に科学で説明できない現象なんてあるわけないだろ? たとえあったとしても、それが一流企業の商品として流通しているなんてあり得ない。狐の魔法というのはあくまでも謳い文句であって、〈フォックスマジック〉はれっきとした科学技術のはずだ」
遠山が語った荒唐無稽な話を鼻で笑って反論したのはやはり内田だ。
持論を馬鹿にされた遠山はしかし怒るのではなく、それが当然の反応だと受け止めた上で、対抗心をむき出しにして言い返した。
「あら? あなたは〈フォックスマジック〉がいったいどういう代物なのかご存じなのかしら? スノーフォックスが20周年を迎えようとしている今になっても、〈フォックスマジック〉の正体や理論は何一つ公表されていないし、他のライバル企業も類似商品の開発には至っていないというのに? それに、あんなタネも仕掛けもなさそうなただのニットのマフラーやセーターにそれほど凝った科学技術が用いられているようには思えないのよね。だから少なくとも私は、何か特別な化学繊維の開発に成功しましたと言われるよりも、本当に魔法をかけましたと言われた方が、あの不思議な温かさにも納得が出来ると思うわ」
島崎を挟んで睨み合い、火花を散らす二人。
遠山がただのオカルト信者ではなく、論理的な思考に基づいて〈フォックスマジック〉の正体を疑っていると分かった内田は、コイツなかなかやるな、とでも言いたげな表情を浮かべたのち、「なるほど。確かに君の言うことにも一理あるかもしれない」と頷いてここは素直に引き下がった。
いいライバルを見つけた、みたいな顔をする彼を見て、静夜の両腕にどういうわけか鳥肌が立つ。会議室の冷房が効きすぎているのかもしれない。
「でもでもぉ、もしホントに〈フォックスマジック〉が科学で説明できない何かだったら、ここの人たちはみんな魔法使いってことにならない? それってマジヤバくね?」
すると今度は、静夜の左隣に座る女子学生がよく通る声を張り上げて発言した。
自己紹介の順番で言うと次は遠山の正面に座る栞だったが、楽しそうに笑う彼女にみんなの注意が向いたため、そのまま自然と自己紹介を始める。
「あ、ごめんごめん! 順番無視しちゃったね! えっと、じゃあ、……東京女子大二年の
早口でも滑舌のよい語りは彼女のノリと勢いの良さを存分に発揮しており、何事にも動じない、物怖じしない芯の強さのようなものを感じさせる。
着ている服も原宿系というのだろうか。他の学生よりも色が派手で垢抜けた装いだ。
随分と個性豊かなメンバーが集まったな、と静夜は栞も含めた学生たちを見回してそう思った。
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