第17話

 空が茜色に染まり、その中を二匹の鳥が平行して飛んでいた。

 どこまでも続く無限の空はあの子達の眼にはどう映っているのだろう。空は世界とつながっているなんて軒並みな表現だけどものすごく的を得ていると思う。


 空は広く、世界も広い。どこまでも続き、どこまでも可能性を広げているのだ。

 そんなことを考えながら帰り道を歩いていると隣を歩く、ちーちゃんが嘆くように呟いた。


「あぁぁ、なんか早くない?」


「何が?」私が尋ねる。ちーちゃんは大抵、主語が欠落していることが多い。


「高校生活だよ。もうあと一年しかない。受験考えたら実質一年もないかも」


 確かに、来週には十一月に入るので高校生でいられる時間はもう少なかった。


「俺は別になんとも思わないけどな」


「そりゃ柊介はゲームしてるだけだからね。寂しい男だな」


「はっ、やりもしない部活に入ってる奴に言われたくないね」


「なによ」


「なんだよ」


 私を挟んで二人が軽く口論を始める。いつものことだが、仲裁には一応入るとする。


「将来は考えないといけない時期かもね」


 大学がエンターテイメント化している時代だ。一人一人が考えていかないといけない時代とも言える。みんな同じでよかった時代は終わったのだ。

 私達がどんな道に進むかはわからないけれど、こうやって三人で一緒に帰る日が少なくなるのは寂しかった。


「将来ねぇー。私、そういうの全然わかんないわ」


「めずらしく意見があったな、俺もだ」


 ちーちゃんと柊ちゃんがそれぞれ口にする。


 将来。自分で言った言葉を脳内で反芻させた。何故だろう。言葉に影が差す。

 将来、未来、希望、願望。浮かび上がる似たような言葉はどれも重く深い色をしている気がした。そこでちーちゃんが一際明るい声で「でもさ」と口を開いた。


「どこに行っても、こうして集まる時間は作りたいかな」


 ちーちゃんが嬉しいことを言ってくれた。この時間を大切にしているのは私だけじゃないんだ。


「まぁ柊介はいなくてもいいんだけどね」


 とお決まりのちーちゃんの余計な一言に当然、柊ちゃんも噛みつく。


「まぁ俺も千景はいなくてもいいと思ってるぞ」


「なによ」


「なんだよ」


 再び二人の些細な喧嘩が始まり、私は笑みを零した。


 きっと私達は大丈夫。三人一緒にいつまでも、どこまでもいけるんだ。


 私がそう安堵した、瞬間だった。

 私の視界に映る全て動きが止まってしまった。

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