私があなたに願うこと

第15話

 手術当日。


 朝十時に開始されるということで柊介は学校を休み、千景を部屋に招いていた。手術前に理歩に会っておこうと思ったが、両親といろいろ話したいということで柊介たちは遠慮した。母親とは仲直りしたそうだが、やはりいろいろと話し足りないことがあるのだと思う。

 その代わり今日までの間、放課後は夜まで毎日、病室に入り浸った。三人で話し込むのは本当に久しぶりで、話題が尽きることがなかった。


「昨日、ちゃんと寝たのか?」


 柊介の部屋にやってきて早々ベッドに寝転がり始めた千景は、もう何度も欠伸をしていた。


「寝れるわけないじゃん」


 そう言って、千景は再び欠伸をする。そういう柊介も昨日は全然眠れなかった。

 時計の針が十時十五分前を指したことを確認し、柊介は能力の端末を出した。黄色い球体が両手の掌に現れ、確認する。それに気付き千景が身体を起こした。

 端末はすでに理歩の夢にリンクされるようになっている。あとは設定を書き込むだけだった。


「まだ意識はあるな」


 リンク先の脳が睡眠状態に入ると、球体が黄色から青に変化する。色の変化が起きた後で設定を書き込むことが出来るのだ。千景は球体に顔を近づけながら聞いてくる。


「これがりーちゃんの夢とつながるには柊介が念じればいいの?」


「そんな簡単ならよかったけど、リンク先は俺が頭に触った最後の相手だ」


「え、じゃあその間に誰かに触ったら?」


「そいつがリンク先だな」


「げ、めんどくさっ」


「俺が一番思ってるよ」


 柊介はげんなりしながらベッドの中央に座る。向かい合うようにして千景は柊介の前に座り直した。


「俺の両手に触れていれば、千景も理歩の夢が見れるから」


「りーちゃんと話したりは?」


「出来ない。あくまで観賞だ」


「なんか知れば知るほど地味ね」


「うるさいな」


 球体が黄色からゆっくりと青に変化していく。理歩の意識が薄れていく証拠だった。


「始まるな。ほら、手触れよ」


 千景は球体を見つめながらトーンを落とした声で言う。


「柊介……りーちゃん、大丈夫だよね? また」


「会える、話せる。そのために俺たちが希望を見せるんだ」


 千景の不安をかき消すように、柊介は力強く言った。それは自分の不安を消し去ろうとするものでもあった。

 千景は安心したように頷き、そっと柊介の両手に自分の手を重ねた。


「……いくぞ」


「うん」


 完全に青く変化した球体に柊介は設定を書き込む。


 理歩に希望を与えるために。

 理歩の心を救うために。


 二人の視界が、白く包まれていった。

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