第4話
『ちーちゃんね、ずっと心配してるんだよ。あいつ何か悩んでることがあるんじゃないかって』
「暗くなったって、今日罵られたけどな」
『まだ気にしてるの? 何度も言うけど、あれは柊ちゃんのせいじゃないよ。実際、ちーちゃんは元気になった。それは柊ちゃんが頑張ったおかげだよ』
「……それは結果論だよ。少し、ほんの少し違う方に傾けば、あいつは壊れていた。取り返しのつかないことになってたかもしれないんだ」
もう何年もこのやりとりは続いていた。だから電話機の向こうで理歩の顔が容易に目に浮かんだ。自分の事のように辛く切なく苦しみを耐える顔。
そんな顔をしないでくれ、俺は大丈夫だから。そう言いたくてもどこかで拒絶してしまう。自分が許せなくて、許せな過ぎて、どうしても言葉に出来なかった。
理歩は落ちた沈黙を思い切り破るように明るい声で言った。
『相変わらずだねぇー。気にするなとは何度も言ってるからもう言わないけど、いつかは決着しないと駄目だよ。ちーちゃんとは仲良くして欲しいんだから。これからもずっと』
「……」
『返事は?』
「……いつか、な」
その返答に満足はせずとも、理歩は「まぁよし」と妥協してくれた。
『それだけはもっかい言いたかったんだ。ちーちゃんの前じゃ話せないからね』
「悪いな、気遣わせて」
「そう思うなら、ちゃんと考えてほしいですね」
理歩はそう言ってまた日曜日にと電話を切った。柊介は再びベッドに寝転び仰向けにジプトーンの天井を見つめる。
「考えては、いるんだよ。考えては」
柊介は両手を天井に伸ばした。そして、ボールを持つくらいの間隔を開けて掌を向け合った。
心の中でトリガーを引くイメージ。
誰に教えられたわけでもないただ知っていたやり方。すると柊介の両手の掌の間に黄色く発光するバスケットボール程の球体が現れた。デジタル映写されたようなそれは掌の間で落ちることなく浮いている。
柊介はその球体を険しい顔で見つめたあと脱力したように両手をベッドの上に落とす。すると球体は瞬時に消え去った。
「考えても……結論が変わらないだけなんだよ、理歩」
暗い水底に沈んでいくように感じていた。そこは終着地点のない底なしの世界。沈みながでも水面の明かりは見える場所だった。
沈んでいけばいいと思う。どんなに落ちていっても千景が笑っているのならそれでいいと思うから。
それでいいと、思っているんだ。
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