Morning & Night/See You-2
「ねえ、どうしてこの手に、血がついてないの?」
マキは首を傾げ、トオルがその眼前に手を突き出す。確かに、手に血はついていなかった。
「……?」
まだ意味がわからない様子のマキに、トオルが言った。
「本当に君は、ヒカルを刺せたの?って訊いてるんだよ」
アキが、顔を上げた。
それと同時に、外に出ていた四人が戻ってくる。
「いないな。下の階にも、姿はなかった」
「……じゃあ、上、か……?」
「だったら上がる瞬間を僕らに見られてしまうだろう」
「わかんねえよ。行って来る!」
ヤスユキがひとり、駆け出した。三人が中に戻り、シズカはアキの元へ、アラタはマキの元へと近づく。
「アキ、気を取り戻せ。ヒカルは、死んでなんかいないぞ」
「……ほん、と……?」
「ああ、ほぼ、間違いない」
「僕も、そう思うよ」
そう言って、トオルがマキの手を指差した。
「手が、どうかした?」
「あの子がヒカルを刺したんだよ? なのに、血がついた様子が全くない」
そのマキは、アラタに肩を摑まれ、前後に揺さぶられていた。
「だから、お前は殺してないんだ! 復讐はできなかったかもしれないけど、もういいだろ?」
「……ほんとに?」
マキの目に、光が戻ってきた。
「ああ。お前は人を殺してない」
強く言われ、マキの目から涙が零れた。思い詰めていたのだろう。しかし、やってしまった。だが実際行動に移すと、想像以上の重荷だったはずだ。それから、解放されたに違いない。
「ごめん」
それだけ言うと、マキは顔を下に向け、噎び泣いた。それを責める者は誰もいなかった。
「あいつは、ここまで想定していたのかな」
アラタが、場の雰囲気を変えるように言った。
「そうだと思う」
受け取ったのはシズカだ。
「幾らなんでも異様に太ってて、怪しいとは思ったんだ。九頭自体が太ってたとはいえさ。あれ、詰め物をしていたんだろうね」
そう言って、肩を竦める。
「……俺たちのことも、随分調べていた……。……マキと九頭の関係も、知らない方が、不自然だろう……」
シンジロウが結論付ける。
「つまり、僕達は最後までヒカルの掌の上で転がされてた、ってわけだ」
トオルが頭の後ろで手を組み、嘆いた。
「どこまで考えてたか知らないけど、思惑通りだろうな。お前たちと別れを告げて、マキに復讐させて、一応、全てを救って、旅立った」
アラタがそう言って、外を見た。もう、外は暗い。日が沈みきってしまったようだ。だが夜でありながら、新しいこの街に出会った気がする。
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