Evening/Good bye-19
「どうして!」
トオルが叫ぶ。ヒカルが振り向き、子供をあやすような優しい笑みをトオルに向けた。
「俺さ、やっぱり人を救いたいんだよ。もっともっと、多くの人に会うために、とりあえず旅に出てみようと思ってる」
「それで、残していく人を不幸にしていいの!?」
その質問には、驚いたように目を丸くしたヒカルだったが、はにかんだように笑って応える。
「そう言ってくれて、嬉しい。ありがとう。でも、俺はいなくても大丈夫な人間だ。一瞬だけ、立ち上がるための手助けをしている時だけ、意味がある。もうお前らは大丈夫だよ」
「じゃあ何でこうまでしてお前を探したと思ってんだよ!」
ヤスユキが叫んだ。もう、顔を涙でぐしゃぐしゃにしている。
「必要なんだよ! そんな寂しいこと言うなよ。友達だろ!」
「わはは」
ヒカルは呵呵大笑する。
「お前がそう言ってくれるなんてな。でも、俺がいない方がお前にとってはいいはずだぜ? 大丈夫。良く考えれば、俺の価値なんて、そんなもんだ」
「そんなはずねえ。じゃあお前のために動いてたアキは、どうすんだよ」
「ああ、こいつは別。こいつは連れてくよ」
平然と指し、指されたアキははにかんだ。
「こいつは、俺と同じ、特別変な奴だから。お義父さん、お義母さんとは連絡をとれるようにはさせるつもりだけど、俺がいないとダメみたいだから、連れてく」
「じゃあ僕も連れて行ってよ!」
「そうだ。俺も、連れてけよ」
「僕も、連れて行ってくれよ」
三人から一斉に言われ、ヒカルは頭を掻いた。
「いや、そうは言ってもな」
「皆を幸せにしたいなら、そういうのも全部背負って、本当に皆が幸せになれるような仕組みを考えるのが本当だろ。ヒカルはただ、逃げてるだけだ!」
シズカが、怒って言った。
「いや、そう言うけど、お前らもそれ、俺に甘えてるだけじゃね?」
「そうだよ! 何が悪いんだよ! 元々はいなくなるって言うヒカルが悪いんでしょ!?」
トオルが言うと、ヒカルはもうお手上げ、というように腕を広げた。
「わかった。わーかった。とりあえず、お前たちとは連絡がとれるようにしておく。それでいいか?」
「本当に?」
まだ訝しげにシズカが聞くが、ヒカルは笑って頷いた。
「本当だ。俺を信じてくれ。噓をついたことは、これまでないだろ?」
そう言われると、渋々頷くしかない。だがそれで、少しずつ、彼らに嬉しさがこみ上げてきたようだった。
「良かった、ヒカルが戻ってきて」
「ま、いないとつまんねえしな」
「またヒカルと話せるなら、それでいいか」
三人が和気藹々と話す中、向こう側から声が掛かった。
「もうそっちの話はそれでお終いだな?」
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