Evening/Good bye-20


 アラタが、地べたに座り込んだまま、声をかけた。

 シンジロウも、立ってはいるが、腕組みをし、疲れた様子だ。マキも、肩を落として俯いている。

「俺たちがお前に都合よく利用されたのは、まあ許してやるよ。九頭がいなくなって、結果的に夜は平穏になったみたいだしな。それで、これからお前はどうするんだ?」

「どうする、とは?」

 ヒカルが微笑む。

「わかってるんだろう。俺たちのここを、どうするつもりか、だよ」

「はは、意地悪してすまない。勿論、もうここは使わない。警察に追われるようなへまもしない。また君たちの好きにすればいい」

「オーケー。じゃあもう、言うことなしだ。こっちもお終い。そろそろ夜が来る。お前らも、さっさと帰ってくれよ」

 アラタが手を振った。そして、真顔になる。

「それで、〝シュウ〟もこれで、さよなら、でいいんだよな?」

 シュウが、肩を竦ませた。よく見ると華奢な体を少し縮ませながら、頷く。

「そう……だね。今まで、ありがとう。この場所は、素性も探らないで、居たいだけ居てよくて、アラタを捜して自暴自棄になりかけて辛かった私を受け入れてくれて、楽しかったよ」

「おう」

 アラタは顔を向けず手を振り、シンジロウは黙って頷くだけだった。マキが、一歩前に出る。

「どうしたの?」

 シュウが問うが、マキは顔を上げない。

 俯いたまま、シュウへと近づいた。

「えっと……何かゲーム借りたままだっけ?」

 小さい者同士、気が合うことも多かったのかもしれない。マキはシュウへの前に歩み寄り、だが通り過ぎた。

「え?」

「ん?」

 そして、ヒカルの前に立つ。

「どうした? 俺になんか用か?」

 そのヒカルの胸に、飛び込んだ。

 ヒカルも思わず抱きかかえる。その顔が、歪む。マキを突き放した。

「何!?」

 シュウが叫ぶ。ヒカルの腹に、銀色の鈍い光が煌く。ナイフが、突き刺さっていた。

「いやあ!」

 ヒカルが崩れ落ち、シュウが駆け寄り肩を抱く。ヒカルは膝を地面に突け、指された箇所を押さえながら、顔を上げた。

「こ、こりゃまた……どうしたよ、お前」

 見上げたマキの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。クールで生意気な彼からは想像できない、年齢通りの幼い顔つきだった。

「お、お前が、兄ちゃんを、殺した、から……っ!」

 しゃくりあげ、肩を震わす。

「な、何してるんだ、マキ!」

 やっと状況を理解し、アラタとシンジロウが駆け寄った。

「てめえ!」

 向こう側から血気盛んな男が飛び出し、他のふたりもそれに続いた。

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