Evening/Good bye-15


「さて、お前ら」

 九頭が口を開いた。いや、〝ヒカル〟なのか。彼らには、それが本当に自分が知っているヒカルか、判断がつかないようだった。

「あれだけ俺がいなくなっても探すな、って言ったのに、何してんだよ」

 その口振りは、正しく彼だった。

「お前も、止める気なかったろ」

 そう言ってアキの頭を叩く。アキはてへ、と舌を出して謝っていた。

「……なあ、どうしたんだよ、お前」

 ヒカルとわかって、やっと声を出せたのは、ヤスユキだった。声を出すと止まらなくなり、一歩前に踏み出して、出てきた疑問を一気にぶつける。

「どうしてそんな顔に、体になっちまったんだ? どうして俺たちの前から消えた? なんでアキは知ってんだ? なあ、どうしてだよ!」

 ぶちまけたヤスユキに、ヒカルは気の毒そうに眉根を寄せた。

「いや、悪いとは思ってたんだ。でも、仕方ないだろ? 人を助けるためだ」

 悪びれずに明るく頭を掻く彼に、シズカが口を開く。

「なあヒカル」

「ん? どうした、シズカ」

 その優しい口振りは、やはり彼のものだ。それを再確認し、シズカはひとり、一瞬瞼を閉じる。そして開き、問いかけた。

「君のことだから、人を助けるため、という答えに疑いはないだろう。でも、ひとつだけ疑問があるんだ」

「なんだ」

 ヒカルは、優しく聞き返す。

「どうして僕達に、別れの挨拶をしてくれなかった。僕達は、友達じゃなかったのか?」

 その質問に、ヒカルはゆっくりと首を振った。

「わかってくれ。やるべきことがたくさんあったし、この姿であそこに行くわけにはいかなかったんだ」

「でも、そしたら、このままお別れだったのか? 君は、その男として生きていくつもりだったのか? そんなの、悲しいじゃないか!」

 シズカが叫んだ。トオルは泣きそうになりながら、ヤスユキは真剣な顔で、頷き同意する。

 九頭、いやヒカルは、腰に手を当て笑って答えた。

「はは、あんがとさん。まあこうやって出来てんだから、結果オーライ、ってことで」

「何さそれー」

 トオルが、笑いながら目尻を拭う。そして、ふと気がついた。

「出来てる?」

「ああ。今日で、本当にお別れだ」

「何で!? 別に、いいじゃん! 顔変わっても、僕は気にしないよ!」

 トオルが叫ぶが、ヒカルは首を横に振った。

「いいや、ダメだ。俺は、これからこいつとして、人生を歩んでいく。お前たちとは、一緒に居られないよ」

「一緒に居られなくても、会うことくらい、こっちの自由だろ」

 シズカが怒ったように言うが、ヒカルは苦笑するばかりだ。

「許してくれよ。ヤクザが、一般の高校生と会って、何するんだよ」

「バレなきゃいいじゃん!」

 トオルも叫ぶ。ヒカルは困ったように頬を掻いた。

「うーん……これは言うまい、と思ってたんだけどなあ。俺、この街から出て行くつもりなんだわ」

「どういうこと!?」

「これからは、全国津々浦々で、俺のできることをやろうと思ってさ」

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