Evening/Good bye-13


 その声を聞いて、トオルの身が固まった。

「どうした?」

 隣りにいたヤスユキが声を掛けるが、トオルの目は大きく見開かれたまま動く様子を見せない。

「なあシズカ……」

 とシズカを見ると、シズカも同様の表情を見せていた。訝しんで、ヤスユキが問う。

「おい、どうした?」

 シズカは顔をヤスユキに向け、呆然としたように呟く。

「お前こそ、気づかないのか?」

「は? 何に?」

 ヤスユキは顔を九頭に向けた。丸っこい、中年太りした体で、いがぐり頭の男は、こちらに背を向けたまま向こう側の奴らと話をしようとしている。

「信じらんない」

 こんなときにまで、トオルはヤスユキに冷たく吐き捨てるように言う。

「おい、待てよ。ほんとにわかんねえんだよ。何だよ。教えてくれよ」

 シズカが、溜息を吐き、ヤスユキでなく、正面を向いて、少し大きめの声で、言った。

「ヒカル、どういうことだ」

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