Evening/Good bye-9


「答えろよ、アキ!」

 叫んだのは、ヤスユキだった。怒りと混乱で震えている。ただ、なのに、彼女の元へは近づかなかった。近づけなかった。近寄らせない何かが、彼女とこちら、いやあちら側にも、あるようだった。それは、アキが、得体の知れない何かになっているからだ。

 だがアキは、くすりと笑って、答えようともしない。

 すると、くるり、とその場で半回転して、こちらを向いた。

 猫のように大きな眼が、三人を射抜く。

 それまで叫んでいた三人も、思わず息を呑んだ。

 その時、トオルが後方の開け放たれたままだった扉のところに、気配を感じた。振り向き、目を大きくして、また息を呑む。今度は、その息を吐いた。

「……九頭」


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