Evening/Good bye-4


「何の音だ?」

 アラタが顔を上げ、外へ視線をやった。特に変わった景色が映っているようには思えない。アラタは窓際へと近づいていき、地面を見下ろした。窓もなく、柵もないフロアの縁は、一歩間違えれば落ちてしまいそうな恐怖を感じさせた。

 思わず吸い込まれそうになり、一歩を退きながら、アラタは息を吐く。

「……どうした……?」

 特に音も聴こえていなかったのだろう、シンジロウが首を傾げる。

「いや、なんでもない。勘違いだったみたいだ。それより、シュウはどうしたんだ?」

 アラタが、ふたりに訊いた。そう、確かにその場には三人しか居なかった。

 マキがつまらなそうに視線をパソコンに落としながら応える。

「知らない。また塾が長引いてるんじゃないの? まあ逃げたとしても、おかしくはないけど」

「……つまらないことは、言うべきじゃない……」

 珍しく、シンジロウがマキを叱った。マキは唇を尖らしながら、「はいはい」とキーボードを叩く。マキも、本音でそんなことを思っているわけではない。ただ、いないのが寂しい、悔しいのを紛らわすために、憎まれ口を叩いているのだろう。

「何もないならいいんだけどね。正直、少し危ない領域に入ってきているところはあるから、何かあったんなら早急に動かないと」

「……今のところ、俺たちに危害を加えるのは、九頭くらいじゃない、か……?」

 シンジロウが瞑想しながら問いかけるが、アラタは眉を歪めた。

「さっきの俺の推理通りだとすると、〝ヒカル〟のグループにも少なからず動きがばれてるだろ。シュウを人質にとられたら、俺たちは〝ヒカル〟側に付くしかなくなる」

「……捜しに、行くか……」

 シンジロウが文庫本を閉じて、立ち上がった。最近まで読んでいたものと違う、新しいものだった。

彼は口数が少ない割りに、すぐに行動に移したがる。アラタが一旦は押し留めるが、顎に手を当てて考え込んだ。

「とはいえ、危険な芽は早めに摘んでおきたいし、九頭が来るから、ひとりは残っていないといけない」

「〝ヒカル〟のグループが来るかもしれないから、罠とかセットして隠れて見張っとかなきゃいけないしね」

「……その〝ヒカル〟達が、俺たちより先に、ここにいる可能性も、ある、か……」

「参ったな」

 アラタが頭を掻いて、溜息を吐いた。

「じゃあ、三人で手分けするか。ひとりは捜しに、ひとりはここで、ひとりは〝ヒカル〟対策」

「だったら僕は、〝ヒカル〟対策だね。取り付けた防犯カメラの画像も見られるのは僕だけだし」

「……俺は、捜しに行こう……」

「そうだろうな。俺はここで寂しく九頭を待ってることにするよ」

 アラタが手を挙げると、シンジロウは頷き、立ち上がった。マキも階下にでも移動しようというのか、立ち上がり、パソコンを手にする。

 その時

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