Evening/Good bye-3
大きく開け放たれたフロアには、瓦礫が積み重ねられている以外何もなく、やはりこれといって先日と変わったこともなさそうだった。
念のため確認をした四人は、頷きあい、階段へと向かう。
コンクリートが剝き出しの階段は、一歩一歩、登るごとに音が響き、四人を無口にさせた。カツン、カツン、と響くその音は、一音鳴るたびに、彼らに問いかけるようだ。
この先に、本当にヒカルが居たら。
この先で待っていて、本当にヒカルが来たら。
この先に、別の人間が居たら。それが、九頭だったら。
この先に、誰もいなくて、何もなかったら。
最後の言葉は、疑問ではなく、いつの間にか彼らの中で希望のようになっていた。
――本当は、何もなく、自然にヒカルがひょっこり戻ってくるのを待っているのが一番良かったんじゃないか。
――危険に首を突っ込んだだけじゃないか。
緊張感で、何度も自問したはずなのに、いらぬことが再び個々人の頭の中を過ぎる。
誰もが俯いて、自分の足取りだけを眺めていた。その時。
「ちょっと。何で暗い雰囲気になってんの? ほら、顔上げて! ヒカルに会いに行くんでしょ? 何で暗くなんのよ。おかしいでしょ? 少々怖いからって、何よ。一番楽しいことが待ってるのに、何でこんな雰囲気になんのよ」
最後は自分の言葉に煽られるように怒って、最後尾にいたアキが言った。腰に手を当て、睨んでいる。その顔を呆然と見て、三人が笑った。
「はは、その通りだよね。どうもダメだ。緊張してるみたい」
「そうだね。何でだろ。やっと、久々にヒカルに会えるかもしれない、っていうのに」
「別にヒカルに会っても嬉しくないからじゃね?」
「ヤス」
アキが鋭い視線をぶつけ、ヤスは舌を出して肩を竦める。だが、それで場の空気が弛緩した。ふっ、と息を吐き、誰しもが肩の力を抜いた。
「どうなるかわかんないことに、いちいち気を揉んでもしょうがないよな」
「それに、四人が居れば、どうにかなるよね」
「ま、嬉しかないが、あいつがいたら少しは楽しいのは、わかる。あいつも寂しいだろうし、探してやろうぜ」
「強がり言っちゃって」
アキが含み笑いをし、ヤスユキを追い抜いた。
「あ、おい!」
「先行くよ!」
アキが、階段を駆け上っていく。見上げる形になり、スカートが揺らめいた。白い太腿が視界に入り、思わず三人は目を背ける。それに気がついて、アキが振り向いて腰に手を当て、見下ろした。
「もう、ちょっと! 何してんの? 行くよ!」
「お、おう!」
三人が走り出し、四人は狭い階段にひしめき合って眩しい夕陽が差し込む最上階へと駆け上がっていった。
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