Evening/Good bye-2
朝が終わり、昼が過ぎ、間もなく夜が訪れようとする黄昏時。彼らはどこか落ち着かない素振りで、廃墟ビルの一番上の階、四階に集まっていた。
九頭を呼び出してから、数十分。とりあえず九頭には「来る」と言わせたが、その仕掛けに〝ヒカル〟が乗ってくるかは、わからなかった。
「メアドとかもわかってれば良かったんだけど……」
マキが呟く。確かに、九頭がここに来ることがまず伝わらないと、〝ヒカル〟、もしくはその味方を罠に嵌める作戦は初っ端から失敗していることになる。〝夜のヒカリガオカを守る会〟のHPに載せただけで相手に伝わるかは、一種の賭けだった。
「ま、仕方がないさ。来なかったときは、来なかったときだ。九頭に昨日わかったことを話すだけでも、これだけ情報集めたんだから、期限を延ばしてくれたりするかもしれないしな」
「そんな楽観的な」
マキが嘆くが、アラタは意に介した様子も無い。
「はは。ただ、俺は来る可能性は、かなり高いと思ってるよ」
「何で?」
「あの写真があったのは、偶然じゃないんじゃないか、と思い始めたんだ」
「……どういうこと、だ……?」
シンジロウが眉をひそめる。アラタは頷いて、話を続けた。
「つまり、俺たちが〝ヒカル〟のことを探っていることに向こうも気がついていて、なおかつ俺たちと九頭に繋がりがある、ということをどこかで知ったんじゃないかな。そこで、俺たちが呼び出すなら、無警戒に九頭も出てくるだろう、と読んだ」
「そうか……。僕らがやろうとしたことを、すでに向こうがやっている可能性もあるのか」
マキの呟きに、アラタは肩を竦める。
「ま、そうなるな」
「……だが、どちらにしろ、俺たちに害はない……」
「そういうこと。〝ヒカル〟が九頭と決着をつけて、平穏が戻るならそれもよし。九頭が〝ヒカル〟を捕まえてここに迷惑を及ぼさないなら、それはそれだ」
アラタの説明に、暫し黙ったシンジロウだが、納得したように頷き、視線を眼下に見える風景に注いだ。
ビルの明かりが少しずつ目立ち始めている。周囲も廃ビルで光がない分、遠くの街明かりが綺麗に見える。夜になれば、もっと美しくなるだろう。
だが今は、まだ闇に隠されない街が赤く照らされ、人々が血流のように動き流れていた。
その中に、〝ヒカル〟の姿はあるのだろうか。
彼らは静かに、その時を待った。
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